Stan Douglas の『~メモリアス~』 | MARYSOL のキューバ映画修行

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Stan Douglas Inconsolable Memories

Film still from Inconsolable Memories, 2005. Stan Douglas. Courtesy of the artist/Art Gallery of York University.

前回はミゲル・コユーラ監督(キューバ出身)の『続・~メモリアス~』を紹介しましたが、きょうはカナダのビデオ・インスタレーション・アーティストの『続・~メモリアス~』を紹介します。
アーティストの名前はスタン・ダグラス(Stan Douglas)
経歴を見ると、ビデオ・インスタレーション分野のパイオニアだそうです。
で、きょうご紹介するのは、彼が2005年のベネチア・ビエンナーレに出品した作品で、その名も『いやし難い記憶』。そう、『低開発の記憶』のことです。
スタン・ダグラスの『いやし難い記憶』は、トマス・グティエレス・アレア監督の『低開発の記憶』にインスピレーションを得た、リメークみたいな作品だとか。
製作の動機は「カストロ存命中にキューバを見ること」で、完成した作品は、カタログの説明によると「20世紀のイデオロギーの廃墟としてのキューバ」。
そのうえ、アレア版『~メモリアス~』とキューバ映画に対する解釈にもなっているらしい。

さて、アレア作品が1961~’62年という革命にとって重要な時期を背景にしているのに対し、ダグラス作品は約20年後の1980年、マリエル事件が背景。
主人公は、革命政権の恩恵を受けて“建築家”になった、38歳のブルジョアの“ムラート(黒人と白人の混血)”セルヒオ。アレア版同様、ダグラス版の主人公も、マリエル港から10万人を越えるキューバ人がマイアミへ亡命していくなか、最終的に祖国に留まることを決意。ただし、それはポジティブな決断というより、「行動できない男」という意味で、ネガティブな行為とも受け取れるようです。

ダグラス氏は、2005年に2ヶ月掛けてキューバで撮影したスチール写真とビデオ映像でインスタレーションを構成。2本のフィルムをずらして並写するなど、鑑賞者は時間の迷宮に入り込んだような感覚を味わうらしい。けれど、これこそがキューバの現実の表現になっているのかもしれません。また、“革命後のキューバ”に“革命前のキューバ”が混在している様子、カオス、反復、未完の革命への問いかけ、なども暗示されているようです。