ファン・パドロン監督の紹介 | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

そもそもは軽い気持ちで取り上げた“エルピディオ”の話題でしたが、思いがけずキューバ映画という若樹からしっかり伸びた太い枝、あるい根を張っていることが判りました。


実はきょうキューバ人の友人(20代後半で在日5年の女性)に会ったので

「ねぇ、エルピディオ・バルデスをどう思う?」と聞いてみたところ、目を輝かせて「エルピディオって言ったら、キューバではアンパンマンみたいな存在よ!」「子供だけじゃなくて大人も大好きなの。もちろん私も大好き」「話し方がね、田舎の人みたいですごく可笑しいの」と一気に饒舌になり、「じゃあ『ハバナのバンパイア』知ってる?」「スンスンは?」「そうそう『VoltusⅤ』も、すごい人気だったのよ」と、もう童心に帰ったよう。


おかげで、本当に“今でもエルピディオはキューバの人気者なのだ”と実感できました。
となると、『エルピディオ』のシリーズを始め、ラテンアメリカでカルト的人気を博したという『ハバナのバンパイア』の作者、キューバの手塚治?ファン・パドロンの紹介を省くわけにはいきません。


ファン・パドロン(Juan Padron)とその作品について

      ファン・パドロン

      ファン・パドロン・ブランコ
      1947年1月29日 マタンサス出身
      ハバナ大学美術史科卒業


子供の頃から絵を描くのが好きで、マンガを描いたり、8ミリで作品を撮ったりしていた。
興味深いのは、1963年(16歳)Mellaというコミック誌で挿絵を描いている時に、やはり同誌で挿絵を描いていた(歌手になる以前の)シルビオ・ロドリゲスと知り合ったこと。当時のシルビオはギターを習得中。やがてイラストの仕事は止めてしまうが、パドロンの最初の短編アニメでは、彼のために歌を作曲してくれた。

「持つべきものは友達」とは、パドロンの言葉。


影響を受けたマンガ家は、50年代に活躍したスペイン人など数名。

なかでも当時ハバナに住んでいたカタルーニャ出身の優れたアニメ作家ファン・ホセ・ロペス氏が彼の師。


フィルモグラフィ (日本未公開作品の邦題は、Marysolの直訳)


1974年  『エルピディオ・バルデスの冒険』(6’40)
      『エルピディオ・バルデス対軍用列車』(8’10)

      他に短編4本(教育的内容だが、基本にユーモアがある)
1975年  短編4本
1976年  『エルピディオ・バルデス対ニューヨーク警察』(7’06)
      他、短編5本

1977年  『包囲されたエルピディオ』(9’8)
      他、短編3本

1978年  『エルピディオ・バルデス対縞々軍団』(7’44)
      他、短編2本

1979年  『エルピディオ・バルデス』 (長編70’)
      
特徴:機知とユーモアのあふれる優れたシナリオ。
      ダイナミックでバラエティに富むカメラワーク
      観客数は百万人を超え、センセーショナルな反響をよぶ

      他、短編1本

1980年  『フィルミヌート1』 (6’13) *同シリーズは日本でも上映された。
      『フィルミヌート2』 (6’)他、短編3本

      政治風刺から男女関係までバラエティ豊かな内容で、ブラック

      ユーモアやラテン的ウィット満載のギャグが連発される。

1981年  『フィルミヌート』(6’)

      他、短編1本
1982年  『ビバ・パピ!』(5’34)

1983年  『エルピディオ・バルデス対ドルと大砲』 (長編80’)
      
コンセプトの面でも画像的にも一作目より大幅に成熟度を増す
      同作品の成功により、西ドイツとスペインの会社の出資で、

      3本目の長編『ハバナのバンパイア』の製作が決定

      他、短編1本
1985年  『ハバナのパンパイア』
      
世界で最も多くの人が見たキューバ映画

      スペインやラテンアメリカで“カルト”的人気を博す


      『キノスコピオⅠ』 *日本でも上映されたシリーズ
      アルゼンチンを代表するマンガ作家キーノの作品をファン・パドロンが

      共同で製作・監督したコミカルなショート・ショート集

      『フィルミヌート』と似ているが、キーノ特有の人間に対する皮肉な

      視線が加味されている。
      映画的話法を追求したこのシリーズは、国境を越えて受け入れられ、

      高い評価を受けている。
      尚、二人はこの共同作業を大変楽しんでいる様子

1986年  『キノスコピオⅡ・Ⅲ』
1987年  『キノスコピオⅣ・Ⅴ・Ⅵ』他1本
1988年  『フィルミヌートⅩⅤ~ⅩⅧ』
      エルピディオ・バルデスもの/4本
1989年  『フィルミヌートⅩⅨ』
      エルピディオもの/2本
1990年  『フィルミヌートⅩⅩ~ⅩⅩⅡ』
      他1本
1991年  『エルピディオの結婚』
      他1本
1992年  エルピディオもの/2本

1993年  『マファルダ』 (長編80’)(スペインの出資でキーノと共同製作)
1995年  『キューバで失踪』 (長編180’) (Television Espanolaと共同制作)
       エルピディオの物語6章で構成。

1996年  『エルピディオ・バルデス対鷲とライオン』(長編100’)
2002年  『ハバナのバンパイアⅡ』 (キューバ・スペイン合作) 
      
長編アニメではキューバで初めてデジタル技術を駆使した作品


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外国から多額の報酬でオファーがあっても、「エルピディオを自分の仲間だと思っている子供たちが何千人もいるのはキューバだけ」と言うファン・パドロン。


一方「エルピディオは様々な国から独立を支援する仲間を得るけれど、最初の盟友がサムライだったというのは、大事なことだと思わないかい?」と言うのは恩師マリオ先生。


そして、現在アニメ作家をめざして勉強しているキューバの若者たちは、ファン・パドロンの他に、日本の「Voltus Ⅴ(ガンダム)」や“マンガ”にも影響を受けた世代。彼らの作品が観られる日もそう遠くないはず。


これからもマンガやアニメを通して、キューバと日本が互いを近くに感じられると良いですね。キューバ人ではないけれど、私の職場にいるフランスやイタリアの若者も日本のマンガのファン。来日の動機にもなっています。
ブンカの翼は軽々と国境を越えてしまうようです。


*ところで何度かこのブログ(番外編)でも取り上げた『Voltus Ⅴ』ですが、

キューバの資料では、VoltEs ではなく、 やはりVoltUsと記されていました。
ICAICが輸入した外国アニメのなかでも、最も人気のあった作品の一つだったそうです。