今回もリクエスト企画ですニコニコ飛び出すハート

札幌もみじ

通り魔殺人事件

1985年

通り魔殺人事件」とは、警察庁によると、「人の自由に出入りできる場所において、確たる動機がなく通りすがりに不特定の者に対し、凶器を使用するなどして、殺傷等の危害を加える事件」を言います。
 

今回は、「1985年の札幌もみじ台 通り魔殺人事件」のリクエストをいただきましたが、1980年代には現在よりも通り魔殺人事件が多く発生していました。

そのうち、リクエストくださった事件を中心に、よく似たもう一件の通り魔殺人事件も加えて見ていきます。

 

【1985年 札幌もみじ台 通り魔殺人事件】

 
朝日新聞(1985年9月3日)
 
1985(昭和60)年9月2日午後6時45分ごろ、札幌市白石区(1989年の分区で現在は厚別区)もみじ台にあるもみじ台ショッピングセンターの北西出入り口踊り場付近で、1人で本を買いに来て帰ろうとしていたもみじ台中学校3年の海藤恵子さん(当時15歳)が、背後から来た中年男性にいきなり胸や腹を包丁で刺され、間もなく失血死しました。
 
毎日新聞は目撃者の話として、「恵子さんはショッピングセンター内で男に追いかけられ、店外へ逃げたが踊り場付近で追いつかれ、腕で首を絞められたうえ、持っていた包丁で、わき腹を刺された」と報じています。
 
もみじ台団地に囲まれたショッピングセンター
北側のもみじ台北6丁目に
恵子さんの住む郵政官舎があった
 
ショッピングセンターの北西出入り口
階段の上の踊り場が刺された現場
(写真は現在)
 
犯人はそのまま逃走しましたが、殺人事件として男の行方を探していた警察は、9月6日になって近くに住む無職のA男(同42歳)を殺人容疑で逮捕しました。
凶器となった包丁に残された指紋が、前科のあるA男のものと一致したのが逮捕の決め手となりました。
A男が犯行に用いた文化包丁は、直前にショッピングセンター内の金物店で購入したものでした。
 
読売新聞(1985年9月3日)
 
読売新聞の第一報は、事件を恵子さんのポシェットをねらった物盗りの犯行のように報じていますが、逮捕後の取り調べで、A男は事件の10年ほど前から、当時の言い方では「精神分裂病」(以下、現在の呼称である「統合失調症」と記載)を発症して入退院を繰り返しており、1980(昭和55)年からは通院治療を受けていて、この日も「頭がくしゃくしゃしていて、女の子でも刺せば気が晴れるだろう」と犯行に及んだことが分かりました。
 
9月7日にA男は検察庁に送られましたが、札幌地検はA男の供述から精神鑑定が必要と判断し、札幌地裁も2ヶ月の鑑定留置を認めました。
その鑑定結果を参考にして札幌地検は11月7日に、犯行当時A男は「統合失調症で、心神喪失状態にあった」と判断し、不起訴処分にしました。
即日A男は、札幌市内の精神科病院に措置入院(強制入院)となりました。
 
読売新聞(1985年11月8日)
 
この事件では、犯人が逮捕されながらも、精神病による心身喪失状態で責任を問えないと裁判にかけられる以前に不起訴処分になったため、これ以上の情報がなく、A男の履歴や病状についても詳しいことは分からないままです。
 
【1988年 東京八丁堀 通り魔殺人事件】
札幌もみじ台の事件と似た通り魔殺人事件がその後も横浜や下関で起きていますが、2年半後の1988年に東京で起きた事件を見てみましょう。
 
読売新聞(1988年4月4日)
 
1988(昭和63)年4月3日午後1時55分ごろ、東京都中央区八丁堀の交差点の歩道で信号待ちをしていた根本昭子さん(当時42歳)を、「人間はみんな死ななきゃならないんだ」などとわめきながら坊主頭の男が果物ナイフでいきなり刺し、逃げる根本さんを執拗に追いかけてさらに何度も刺し失血死させる通り魔殺人事件が起きました。
 
八丁堀交差点(現在)
で刺され矢印のように逃げた根本さんを
B男が追いかけてめった刺しにした
 
朝日新聞(1988年4月4日)
 
110番通報で駆けつけた警察官が、現場から100メートルほど離れた路上で、返り血を浴びナイフを持って立っている男を見つけ、その場で取り押さえ殺人と銃刀法違反で現行犯逮捕しました。
 
調べによると、中央区に住む犯人のB男(同43歳)は、約20年前から統合失調症で八王子市内の精神科病院に入院していましたが、事件の前年(1987)6月に「治った」と言い張って退院し、弟が経営するマージャン店を手伝いながら通院治療を受けていました。
 
B男の自供によると、「小さいころから不幸続きだったので、人を殺せば幸せになれる」と思い、前々日の4月1日に近所の金物店で購入した果物ナイフを持ち、3日午後1時ごろ「誰かを殺そう」と外出し事件現場まで来たところ根本さんを見て、「女なら殺せる」と考え刺したとのことです。
 
朝日新聞(1988年6月8日)
 
B男の精神鑑定を行った東京地検は、1988年6月7日、鑑定結果から「男は統合失調症で、犯行時、心神喪失状態だった」とし、不起訴処分にしました。
B男は即日、都内の病院に措置入院となりました。
 

 

サムネイル

小川里菜の目

 

【通り魔殺人事件と精神障害】

1980年代は現在よりも通り魔殺人事件が多く発生していたと書きましたが、警察庁の資料で発生件数の推移を見ておきましょうキョロキョロ

 

昭和61(1986)年度「警察白書」

(加工・西暦は小川、以下同)

 

ご覧のように「札幌もみじ台」の事件が起きた1985(昭和60)年は、統計がある限りで「過去最高(悪)」の16件(うち未遂が12件)の通り魔殺人事件が発生しています。

 

データが得られなかったので間が飛びますが、1993(平成5)年から2011(平成23)年の通り魔殺人事件の認知件数は下のようになっており、最も多かったのは2008(平成20)年の14件で、1985年の16件に次いでいます。

 

 

この2008年には、大きく報道された次のような通り魔殺人事件が起きていますが、いずれも犯人は精神障害者とは認められていません。

 

①土浦連続殺傷事件 3月19日・23日 茨城県土浦市

 犯人・金川真大(当時24歳) 2人死亡、7人負傷

 2013年2月死刑執行

②福岡連続殺傷事件 3月25日・4月14日 福岡県福岡市

 犯人・野地 卓(同22歳) 1人死亡、1人負傷

 無期懲役

③秋葉原通り魔事件 6月8日 東京都千代田区秋葉原

 犯人・加藤智大(同25歳) 7人死亡、10人負傷

 2022年7月死刑執行

④八王子通り魔事件 7月22日 東京都八王子市

 犯人・菅野昭一(同33歳) 1人死亡、1人負傷

 懲役30年

 

しかし、1993年から2011年の19年間の平均値は6.5件ですから、先に見た1981年から1985年の平均値9件より3割近く少なくなっています。
 
その後の2012(平成24)年から2023(令和5)年になると、認知件数が10件以上の年はありません。
 
CrimeInfo「通り魔殺人事件の認知・検挙事件数」
 
また、この12年間の平均値は6.6件ですから、1993年から2011年の平均値6.5件から変わっていません。
 
なお、これらの事件のうち精神障害者による犯行がどれぐらいあるかですが、先に見たように、1985年に起きた通り魔殺人事件では「精神障害者による犯行が8件と半数を占めた」と「警察白書」(1986)に書かれています。

 

ただし、ここで言われる「精神障害者」には、精神衛生法️/精神保健福祉法に則って、統合失調症など「(狭義の)精神障害者」だけでなく、覚醒剤などの薬物使用者・依存症者、知的障害者、精神病質者(サイコパス)が含まれています。

 

たとえば、内訳データの記載がある昭和57(1982)年度版「警察白書」によると、1981(昭和56)年の通り魔殺人事件の検挙件数6件(1986年度「警察白書」の表の青枠)の加害者内訳は、「覚醒剤使用者」が3件と半数を占め、「(狭義の)精神障害者」は1件、「その他」(広義の精神障害者以外)2件です。

 

しかも、ここでの「(狭義の)精神障害者」は「統合失調症以外」とのことですので、通り魔殺人事件の加害者には「(狭義の)精神障害者」とりわけ統合失調症者が多いということでは必ずしもないようです。

 
しかし1985年には、9月2日の「札幌もみじ台」事件に続き、9月19日に山口県下関市で精神科病院に通院歴のある男性が日本刀で母親を殺害したあと、通りに出て11名を殺傷する(うち死者3名)通り魔殺人事件が起きて日本中を震撼させたことから、精神障害と通り魔殺人の因果関係が大きくクローズアップされ、「だから精神障害者は怖い」という社会不安が広がったと思われます。
 
近年では、2021(令和3)年12月17日に大阪・北新地の雑居ビルに入る心療内科クリニックで、元患者である容疑者を含む27人が亡くなる放火事件が起き、容疑者も医師も死亡したため真相がよくわからないまま、精神障害者は殺人などの凶悪犯罪を犯す可能性が高いのではという不安が再燃しました。
 
炎と煙をあげる放火事件の現場
 
実際にはどうなのでしょうかキョロキョロ
 
次の表は、最新の「令和5(2023)年版犯罪白書」に掲載された「精神障害者等による刑法犯検挙人員」です。
 
刑法犯での検挙者総数に占める「精神障害者等」の割合は0.8%で、「等(=精神障害者の疑いのある者)」を除いた「精神障害者*」だけを見ると同割合は0.6%です。
 *先に述べた「(広義の)精神障害者」、表の注2(赤枠内)を参照ください
 
 
「令和元(2019)年版障害者白書」によると、精神障害者の概数は419万3千人で、人口の3.3%ですから、精神障害でない人が刑法犯で検挙される割合の方が精神障害者より約5倍も高いのですびっくり
したがって、「精神障害者は犯罪を起こしやすい」という「印象」は、事実無根の偏見に過ぎないことがわかります。
 
ただご覧のように、刑法犯のうち「殺人」(6.2%、「等」を除くと3.7%)と「放火」(12.6%、同10.3%)については割合の数値が高くなっています(この傾向はどの年も変わりません)。
 
これについて鈴木隆行・日本医療大学認知症研究所研究員は、「それらは外部への無差別的なものではなく、家族や自宅などの近親関係に対するものが多く、一般の犯罪とは同列には論じられない」と述べています(毎日新聞 医療プレミア「犯罪率は決して高くないのに……精神障害者への冷たい視線」2022年1月25日)。
 
これを裏づけるデータとして小川が見つけたのは、次のものです。
 
平成13(2001)年版「犯罪白書」
 
殺人事件における加害者と被害者の関係別構成比のデータ(1996年から2000年の累計)で、右が全検挙者で左が精神障害者が加害者のケースです。
 
一般に、殺人事件の被害者の大多数は加害者の身近な人間(知人や家族・親族)だとよく言われますが、このデータを見てもその通り(85%以上)で、「他人(第三者)」が被害者となったケースは15%以下に過ぎません。
この傾向は、加害者が精神障害者であってもなくても変わりません。
 
明らかに違うのは、全体では加害者の「知人」が被害に遭うケースが「親族等」よりやや多い(ほぼ同数)のに対し、精神障害者の場合は、先にあげた鈴木氏が「近親関係に対するものが多く」と言うように、「親族等」が被害者になるケースが7割にも上る点です。
 
このようにデータを見ても、通り魔殺人のように「精神障害者は相手かまわず人を襲う」という「不安」を裏づける事実はなく、「第三者」が被害者となる殺人事件の割合も精神障害の有無で違いはないということがわかります。
 
ちなみに、中村有紀子・越智啓太(法政大学)は、通り魔殺人事件を「精神障害型」「強盗型」「復讐型」の3類型に分けて、それぞれの犯人の属性(年齢や職業、婚姻歴の有無など)の特徴を考察していますが(日本心理学会第78回大会、2014)、3類型の件数割合などについては論じていません。
 
しかし、「強盗」や「復讐」だと動機が理解可能で、ある程度予防策も考えられるのに対し、「精神障害」、中でも妄想などを伴うことのある統合失調症や、覚醒剤などによる錯乱の場合は第三者に予測不能なため、発生件数自体少なくてもそれが喚起する社会の不安感は大きいと言えるでしょう。
 
【心神喪失・心神耗弱と不起訴処分】
たとえ発生の可能性が低くても、精神障害者による殺人事件に被害者遺族をはじめ多くの人がやりきれなさを感じるのは、精神障害が原因の場合、裁判以前に心神喪失あるいは心身耗弱*で検察が不起訴処分にするケースが多いからではないでしょうか。
 *刑法39条に、「1. 心神喪失者の行為は罰しない。 2. 心神耗弱者の行為は、その軽を軽減する。」とあり、「心神喪失者」とは「精神の障害によって,自己の行為の是非善悪を弁別する能力を欠くか,又はその能力はあるがこれに従って行動する能力がない者」、「心神耗弱者」とは「このような弁別能力又は弁別に従って行動する能力の著しく低い者」を言います。
 
平成18(2006)年版「犯罪白書」には、検挙された刑法犯のうち「精神障害者等」が約2400人ありますが、そのうち「心神喪失・心神耗弱」を理由に不起訴処分もしくは裁判で無罪になったのは約800人(約33%)で、3分の2は起訴もしくは裁判で有罪になっています。
 
また、不起訴あるいは無罪になった場合も、強制的な措置入院となるケースが大多数で、しかもその期限が定められておらずいつ退院できるか分からない「無期」入院もあります。
 
次のデータは、1996(平成8)年から2000(平成12)年の5年間に、殺人事件の刑事処分において検察庁で精神障害のため心神喪失・心神耗弱と認められ不起訴になった者と、裁判でそれらと認められ無罪あるいは刑の軽減を受けた者の合計702人の刑事処分後の状況を示したものです(平成13(2001)年版「犯罪白書」)。
 
 
ご覧のように、大部分(約85%)が「実刑・身柄拘束」「措置入院(強制入院)」となっており、「その他の入院」「通院治療」を含めると94%が何らかの措置を受けていて、「精神障害者は何をしても無罪放免」というイメージが正しくないことが分かります。
 
ちなみに、刑法犯として検挙された者(全体)のうち、実際に起訴されるのは一般にどれくらいあるかですが、次の表は2003(平成15)年から2022(令和4)年の起訴に関するデータで、起訴率が下がり続けて2022年には36.2%になっていることが分かります。
 
「その他の不起訴」は「嫌疑なし(犯罪事実がない)」「嫌疑不十分(証拠不十分)」があり起訴ができないケースですが、「起訴猶予」は犯罪の事実は認められるが何らかの理由であえて起訴しないケースです。
つまり、刑法犯全体においても、2022年では犯罪の嫌疑がある者のうち半数以上が「起訴猶予」になっているのです。
 
2023(令和5)年版「犯罪白書」
 
確かに、精神障害者の場合、殺人事件を起こしても実刑になるのは13%ほどで、大部分が「措置入院」になっていることについて、それが強制的で無期だとはいえ、多くの被害者遺族の処罰感情にそぐわないという事実はあると思います。
 
小川は行政書士の資格勉強をする中で、小さな子どもや重い認知症の人のような「制限行為能力者」(自らの意思に基づいて判断ができない、または法律行為をすることのできない者)という概念を学びましたが、責任能力が備わっていない者に対して、責任能力がある者と同じ形で行為責任を問うことができないのは、ある意味当然の論理だと思います。
 
そうした法の論理と、先に述べた被害者遺族のこれもまた当然の感情とどう折り合いをつければ良いのかとても難しい問題で、ここで結論的なことを言うだけの見識は小川にはありません。
 
最後に、そのこととも関係して考えておきたい問題があります。
 
北海道日高地方にある統合失調症の患者を中心とした非常にユニークな活動で知られる当事者施設「浦河ベテルの家」については、前にもこのブログで少し触れたことがありますが、そのメンバーの一人である山本賀代さんという人が、次のような詩を書いています。

 

あたしの どこがいけないの

あのこの どこが変でしょう

 

目に見えるもの 少し違うかもしれない

聞こえてくること 少し違うときもある

 

だけど それだけで 見下さないで 見捨てないで

 

私だって笑ってる 私だって怒ってる

私たちも愛し合う 私たちも語り合える

痛みもある 喜びも 苦しみも あなたと同じに 感じているはず

 

人間なんだ あなたと同じ

人間なんだ 私もあなたも

人間なんだ 病気とかでも

人間なんだ あなたも私も

 

同じ権利をください 裁かれる権利もください

同じ力をください 同じ立場をください

人と人として

 

自分の詩を歌う山本賀代さん(右)と

曲をつけた下野勉さん(左、故人)

 
ここで山本さんは、精神障害の当事者として、「裁かれる権利もください、人と人として」と訴えています。
 
精神障害者だからというだけで自分の意思を持たない無能力者として扱うのではなく、自分の行為に責任を負う一人の人間として「裁かれる権利もください」というのは、決して彼女の特異な主張ではなく、障害当事者の運動の中で上げられている声だと聞きます。
 
それについてはまだ調べられていませんが、きちんと受けとめて考えないといけないことがそこにあるのではないかと、今回のブログを書きながらあらためて思った小川ですショボーン
 

 

今週は事業所のお出かけイベントがあり
みんなでこちらに行ってきました↓
 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

来場の人たちの多くは、生きたフクロウが見られて喜んでいたようです。
しかし小川の本心を言うと、フクロウは大好きなのですが、それだけに
みんな足をヒモで繋がれていて
飛ぶことはもちろん、歩くことさえ少しの範囲しかできずにじっと耐えているかのようなフクロウたちに、心が痛くなりましたえーんえーんえーん
前回のおせんころがし殺人事件のコメントで、動物虐待についてのやり取りした後のことでしたので、なおのことそう感じたのかもしれません𓅓
 
読んでくださった方、ありがとうございましたおねがいドキドキ
次回もリクエスト企画です爆笑