雪組東京特別公演「ニジンスキー ー奇跡の舞神ー」鑑賞レポート | 銀橋Weekly

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宝塚歌劇研究者、銀橋のアカデミックでミーハーな宝塚ブログ。

観劇から1年が過ぎ、改めてスカイステージの映像を観て振り返り、この公演の鑑賞レポートを書くことにしました。


1早霧せいなにとって、そして雪組の未来にとって歴史的なバウホール作品。

チギは確かな技術としなやかで美しい肉体、そして強靭な精神力で画期的な成果を上げた。

このダンスを観れば、チギが単なる「美形のアイドルスター」などという生温い存在でないことが明確になるだろう。



チギはこれだけ踊れて、演技力もあるにも関わらず、大劇場公演でイマイチ彼女を活かせていないのは、やはり演出の問題ではないかと思うほど「ニジンスキー」のチギは素晴らしかったです。

歌は正直難ありでしたが、それでも歌おうと表現していることは伝わってきましたし、音程の不安定さは改善できるレベルと感じました。(そしてこの1年でかなり成長してると思います)

そんな歌のことなど吹き飛ばしてしまうほど、極上のダンスに魅せられました。

美しく、そして繊細で丁寧に踊りながらも、ダイナミズムも兼ね備えています。

そして表情豊かな造形で劇場全体を巻き込むオーラがあります。

演出の原田先生の着眼点、テーマ設定は素晴らしいと思います。



2演出の勝利~バウ作品はテーマも軸も絞った方が面白い~

1人の人物、そしてそのダンスという絞ったテーマにしたことで、作品がシンプルで分かりやすくなり、その世界の中を深堀りすることができた。演出家の選択は正しかった。

また、男性同士の愛情についてもゴシップ的に描くことが目的ではなく、夢と愛のストーリーを進めていく上で欠かせない要素であったため、すみれコードには抵触しないと考える。


バウ&東京特別公演はいわゆる「小劇場」公演であるが故、実験的な企画や少しテーマ性を絞った作品、演出が展開できるのが特徴であり利点です。

その点において、「ニジンスキー」は時代、主人公、テーマを明確に絞って描いており、これが成功の要因になったのだ思います。

深くて若干難解なテーマでしたが、物語の筋が通っていたので生徒も観客も集中できたのではないでしょうか。



3主要3役、早霧を支えた緒月遠麻、愛加あゆがいずれも絶賛に値する好演!

豪快で上品な色気のあるきたろうの役作りが成功しなければ、チギとの掛け合いは成り立たなかった訳で、セルゲイのニジンスキーへの愛情表現の上手さが非常に光っていました。

またヒロイン、愛加あゆの終盤にかけての芝居作りは秀逸で、正塚先生の芝居のような緊張感のある演技は大きな発見でした。

チギとの相性も抜群で息も合っており、バランスのとれたコンビの印象を受けました。



4「早霧せいな」という男役を再発見した公演!

チギは非常に真っすぐで信念があり、そしてニジンスキーのようにピュアで、そんな個性を強い精神力とたゆまぬ努力で支えているのだな、と改めて発見しました。

しつこいですが、そんな彼女の魅力が大劇場で爆発する日が来るのが楽しみです。
(次回のバウももちろん期待大ですが)

ダンスの美しさもさることながら、全ての所作に彼女なりの「男役の美学」が内包されており、これもまた見ていて美しくてうっとりします。

是非トップスターとして見てみたい男役像です。




私にとっては劇場での観劇がもちろん一番大切なのですが、時間をおいて映像で観ることも新しい発見や視点があったりして、違った意味で楽しいです。

スカステの録画も溜まっていますので、これを機会に連休や夏休みを利用して過去の作品を遡ってみようと計画中です。