銀橋Weekly

宝塚歌劇研究者、銀橋のアカデミックでミーハーな宝塚ブログ。


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トートを観ていてこんなにも切ない気持ちになったのは初めてかもしれません。

 

朝夏まなとの役作りを通して、トート(死)という役についてまた新たな捉え方、考え方が広がりました。

 

 

なぜ苦しいほど切ない気持ちになったのか。

かつてなくトートに感情移入できたのか。

 

 

それはきっと、朝夏まなとのトートがきちんと「死」として登場し、シシィに出会ったことで「心」が芽生え、そして芽生えたと同時にその心が劇的に揺さぶられた(=愛が生まれた)、その過程がきちんと表現され、伝わってきたからだと思います。

 

「死」として登場する。

つまり、冷たくもなければ、妖艶でもない。

 

朝夏まなとのトートは温度も、質感もない無機質な存在として現れました。

 

シシィに出会うまでは色気の「色」も「気(配)」もない虚無的な印象すらあり、「ここまで徹するんだ」と少し怖くなるほど。

 

それがシシィに向き合った瞬間、まず「心」が生まれるのです。

 

「死」に、なんと「心」が。

 

そして一気に「愛」らしき感情にまで到達します。

 

ここで朝夏まなとの上手いところは、自分に起こったこの「驚くべき出来事」への衝撃で状況が理解できておらず、そのことに動揺している様を繊細に表現している点です。

 

愛に気づく以前に、「人間的な感情らしきもの」が生まれたことにうろたえているように感じました。

 

 

 

 

シシィを(黄泉の世界へ)呼び込み、出会ってしまった朝夏トートは、これをきっかけに妖艶な存在に変化していきます。

 

心が生まれ、感情が生まれたことで温度や質感を伴うトートに。

 

トートのシシィへの執着、時に屈折し、陰湿にも見えるその言動は、全て彼女への(トートなりの)愛ゆえのものだと思います。

 

トートが本来の「死」のままであれば、現世に生きるフランツと争ったり、「最後のダンスは俺のもの」なんて歌い上げたりしないのです。

 

彼女の我慢を感じさせない間の取り方、手先指先に代表されるエリザベートにまとわりつくような所作、見事なまでに陰湿で素晴らしかったです。

 

 

 

 

「エリザベート」はエリザベートの数奇な運命の物語という捉え方もありますが、トートにとっても同様のことが言えるのではないでしょうか。

 

つまり、この物語はトートが動かし、操っているように見えて、実は導いているのはシシィ(エリザベート)でもあるのだと。

 

 

朝夏トートは自らの力を誇り、駆使して世の中を動かす様と、にも関わらずシシィへの想いに苦しむ様(シシィに惹き込まれている様)の両方を表現力全開で魅せてくれるのです。

 

だから観る者も心を揺さぶられるのだと思います。

 

 

 

 

ラストシーンも興味深いです。

 

エリザベートの愛を勝ち獲り、彼女を黄泉の世界へ迎え入れるトート。

 

実咲エリザベートは恍惚とした表情で幸せそうに見えますが、朝夏トートは幕が下りる直前、何か悟ったような表情を見せた後、また冒頭の虚無的な存在に戻ったように見えました。

 

「生きたお前に愛されたいんだ」

 

エリザベートが「死」(=トート)を愛する時、それはもうトートが求める「生きた」エリザベートではないかもしれません。

 

彼女の魂は黄泉の世界へ行くとしても、その魂とトートは「愛」し合えるのか。

 

互いの愛は永遠に終わることがない、と誓い合っているのはあくまで現世での話。

 

トートはエリザベートに愛された瞬間、そのあるかないかの一瞬の至福で全てが終わることに気付いているのではないでしょうか。

 

少なくとも幕が下りる最後の瞬間の朝夏トートは、

 

「最高に幸せです!言うことなし!ヤッホー!」

 

には見えません。

 

「ついにエリザベートの愛を勝ち取り、愛される、けれども・・・」

 

くらいのニュアンスを私は感じました。

 

 

 

 

歌は冒頭の限りなく無機質に近い歌い方から、感情が芽生えた後の吐息にまで愛に溢れる歌い方まで多才(多彩)な表現力で魅了しました。

 

声が裏返りそうな瞬間も稀にありましたが、私はそういう技術的なことよりも(技術は磨けるので)彼女が描きたい心情が歌を通してきちんと伝わってきたことを大切に受け止めたいです。

 

とにかく表現力の幅があるいい声質であることは間違いありません。

 

ダンスは長髪や長い衣装をもろともしないスタイリッシュな動きという意味では歴代随一かと思います。

 

長い手足の使い方、魅せ方を心得ていて全ての瞬間が芸術的。

もちろん瞬間で捉えるのは勿体ないくらいしなやかな身のこなしでした。

 

 

 

奇をてらわず、伝統を継承しながらも、ゼロから役に向き合った結果生まれた新たな、そして奥深いトート像。

 

朝夏まなとのトート、彼女が率いた宙組がこの作品を「怠惰な再演」ではなく「新たな魂を吹き込んだ再演」にしたと私は確信しています。

 

 

 

 

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