本の杜3/【A-17】文学結社猫 | 山本清風のリハビログ
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 猫の主催する文学の結社、文学結社猫。
 私が入社して一年がすぎたある日、私は主催たる猫に呼びつけられ『本の杜3』出店の命をうけた。

猫「きみ、入社してどのくらいになるかね」
私「一年とすこし、でしょうか」
猫「ふむ。ではいくつ本をだした」
私「おかげさまで、文庫を三冊編ませていただきました」
猫「そうだな。さて、評価はどうだったろうか」
私「いいような、わるいようなです」
猫「激賞もあれば酷評もあった。では、頒布はどうだろう」
私「あまっています」

 主催は肩口の毛をなめながら云った。

猫「あまっているな。激烈に、あまっているな」
私「私はかつてマガジンで連載されていた『激烈バカ』というマンガが、唯一と云っていいほど苦手な絵柄でしたが、いまかんがえてみるとあれはそうとうにおもしろかった」
猫「名刺文庫ひとタイトルにつき百万部の在庫。委託をあわせて四タイトルあるから現在、四〇〇万部の在庫だ」
私「ジャンプ黄金期の刷り部数みたいですね」
猫「あはは、じゃない。二〇一三年は全国行脚してとにかく在庫を消化するんだ。地方にゆけばきみの、意味のあるようなないような小説をいいと思う、モラトリアムめいた余裕のある読者もいるかも知れん。まあ、いないかも知れんが」

 遠くで缶詰を開ける音に主催は反応した。

私「それはすでに考えてあります」
猫「ほう。きかせてもらおう」
私「六月の第二回『福岡ポエイチ』に遠征しようと去年から決めておりました」
猫「あきらめろ」
私「えっ!?」
猫「あきらめるんだ」
私「さきほど〝二〇一三年は全国行脚してとにかく在庫を消化するんだ〟とおっしゃったばかりじゃありませんか、わずか七行まえのことです」
猫「きみ、『第十六回文学フリマ』の開催地はどこかね」
私「大阪です」
猫「むろん、わが社は参加する。そうだな?」
私「むろん、です。どうしたことでしょうこのうろんな問答は?」

 主催はごろんと転がって腹をみせた。

猫「はっきり云っておく。予期しなかった文学フリマの大阪開催によりわが社の本年度分の出張費は、枯渇した。したがって福岡にはいかない。いや、いけない」
私「初耳です。なにか策はないのですか? たとえば在庫をぜんぶ売るとか」
猫「一冊売るごとに赤のでる本をいくら売っても儲けにならんときみはわからんのか」
私「寝耳に水です」
猫「名刺文庫なんだぞ。かつて名刺を売って生活したものがあったか」
私「青天の霹靂です」
猫「ただし、きみの云い条は半分あっている」
私「半分はまちがっているのですね」
猫「わが文学結社猫は、三月十七日開催の『本の杜3』に出店する」
私「川崎に、博多美人はいませんよ」
猫「祈れ」

 というわけで祈りつつ、弊社は下記既刊を頒布する。信じたい。



■本の杜3 3/17(日)於・川崎市産業振興会館

$山本清風のリハビログ
名刺文庫001 『そして太陽は燦々と照っていて』
   2011年11月3日発行
   文庫版/178P/定価1,000円
   説明文:植本浩治

夜の帳に腰掛けて、何処にも存在しないはずの高みから見下ろした世界は、なんて滑稽だったのだろうか。想像力が止まらない。騒々しい創造。自同率のオフ会。芥川賞が欲しい。少年の夢幻的世界が狂ったような筆致で綴られる『メロン』ほか、徹底したユーモアと新しい言語感覚によって謳いあげる『オタクの彼女はウエイトレス』『クリスタルチルドレンの時代』『いむるだいひと』などを収める前人未踏の人畜無害な処女選集。これは現時点で世界一、山本清風に詳しい文庫本である。

$山本清風のリハビログ-名刺文庫002-H1
名刺文庫002 『菌 くさびら』
   2012年5月6日発行
   文庫版/136P/定価500円
   表紙絵:西本愛

くさびらしさとは何か? 人類普遍のテーマをみずみずしい文体で書きあげた二十歳の原点。上京失敗。シスターコンプレックス。夢が壊れました。就職戦線異常あり。いつの時代も変わらぬ若者と、誰にも知られずに誕生していたゼロ年代の文学。余りにもくさびらしい表題作を始め、無頼派とプロレタリア文学との間に産まれ落ちた苦しみを描く『その頃、セブンスターは二五〇円だった』そして、社会に抑圧された自同律が無限増殖した時、止まらない連想が物語になることを証明した『なまえはまだない』など根暗の著者が躁期に書いた可能性のある、くさびらしい三篇をこの一冊に。あっ。宇宙の真理、わかったくさい。

$山本清風のリハビログ-鮨きゅうり夫人
名刺文庫003 『鮨・きゅうり夫人』(委託品)
   2012年5月6日発行
   文庫版/60P/定価500円
   著者:深城巧祐

小平がある朝目覚めると、辺りがまったく不条理なものになっていた。世界はそもそも不条理なのに? 違う。いや違わないというか、私たちが生きる社会は不条理を排除するように設計されたものだ。あなた達の日常は、予測可能であまりに出来事に欠けているはずだ。だってあなたは決して幸福ではないにしても、絶望もしていないじゃないか。日常的な、あまりに日常的な社会の中で時折、理由なき暴力や差別や死を通して垣間見る世界に私たちは戦慄する。そのようにして冒頭から小平の生活、暮らしに剥き出しの世界そのものが顕現する。それもユニークでごぜんぜうな。(解説:植本浩治・団地妻)

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名刺文庫004 『先読 【サキヨミ】』
   2012年11月18日発行
   文庫版/176P/定価500円
   表紙絵:西本愛

「ひとはどこまで優しくなれるのか?」
田西源五郎(たにしげんごろう)は紙幣版元〝株式会社株式会社〟のアルバイト。恋人の殖栗(えくり)と通勤しながら今日もリアル紙幣営業に奮闘するのだが、彼には特殊な能力《先読 サキヨミ》があって―――。透明な同僚。夢をあやつる取引先。謎の代表取締役。およそ癖しかない能力者たちと非モテの文体で語られる社会人能力者バトルの数々がここに。社会人三年目の悩めるあなたと出版関係者に読んでもらいたい、田西サーガの社会人篇。
〝読んでないけどもしドラのつもりで書きました。読んでないけど〟