■戦評■2010ワールドカップアジア予選 日本-オーストラリア 「明日への試金石」 | picture of player

■戦評■2010ワールドカップアジア予選 日本-オーストラリア 「明日への試金石」

さて、メディアでは「決戦」、「絶対に負けられない戦い」、「負けたら解任」などと仰々しい文句が並んだこの一戦。内容はなんとも煮え切らない内容に終始してしまった。

ホームの日本はGK都築、DFが右から内田・その髪型は氷室京介にあこがれてるのか・篤人、中澤、トゥーリオ、長友。中盤の底に、遠藤、長谷部。二列目に右から中村初号機、田中、松井。1トップが機動兵器玉田。松井のところ以外はほぼ事前の予想通りか。オーストラリアはGKがアジア最強シュウォーツァー、DFが右からウィルクシャー、ムーア、ニール、チッパーフィールド、MFが右からヴァレーリ、クリーナ、グレッラ、ブレッシャーノ。2トップがケーヒルとお前は誰だのホルマン。あれ?ケネディは?

試合の流れは簡単に。最終集合が1日前と抜群のコンディションの悪さにあるオーストラリアのプランは、引き分け狙いで明確だった。前半から常識的なライン設定での守備をして、攻撃時には2トップ+1~2人でという臆病な戦術。まあ、気持ちはわからんでもない。そのため、前半から終始日本は主導権を握り続ける。中央突破は中々成功するわけもなく、かと言ってサイドからクロスを上げても中に人がいず、更にはオージーの壁を越えることすら珍しく、前半終了。後半は、すっかり走れなくなったオージーを相手に日本は更に主導権を握るが、それでも決めきれず。数少ない惜しいシュートもことごとくシュウォーツァーにはじき出され、スコアレスドロー。両チームお疲れ様でした。

まあ、グループ内のほかのチームがへぼいので、どっちにしろ両チームともワールドカップにいくだろう。ただ、この試合の重要性はそれだけではない。なぜなら、サッカー専門誌、あるいは識者の間では「試金石」と捉えられていたからだ。すなわち、「今のコンセプトでワールドカップでどれだけやれるのか」、というトライの試合だった。ミドルレベルの力を持つオーストラリアはそのトライに格好の相手だった。

与えられた主要な課題は以下のとおり。
1.ヨーロッパクラスのチームを相手に、高い位置で奪う守備が機能するか。
2.個人能力において優位を持ち、ある程度組織的な守り方をするチーム相手にボールをつなげるか。
3.高さにおいて優位を持つチーム相手に点が取れるか。
4.高さ、個人技を持つ相手に守備は破綻せずに守りきれるか。


他にもいくつもあるだろうが、とりあえずはこんなところだろうか。一つずつ見ていこう。


1.ヨーロッパクラスのチームを相手に、高い位置で奪う守備が機能するか。 ×
これは明確に機能しなかった。確かにプレスをしてロングボールを蹴らせることには何度か成功したが、高い位置でボールを奪えたのは試合を通して数えるほど。オーストラリアはワールドカップに出場する国の中で、ボールを繋ぐ力はそれほど高くなく、平均的なものだ。しかし、そのチームを相手にも、ボールを奪うどころか、しばしばプレスを突破される事態になった。これがもっと繋ぐのが上手い南米やヨーロッパの国が相手だと致命的な状況になる可能性がある。ただ、2002年のトルシエの時にはこのレベルのチーム(ロシア、ベルギー)にはプレスが機能していたのは事実である。選手のレベルがそう簡単に上がったり下がったりするわけでもないので、問題はプレスのかけ方・精度とプレスをする人材の選択にある。前者はともかくとして、後者については中村初号機、松井、遠藤などの足元の技術を武器にする選手を多用しているため、改善の余地はある。ただ、そうなると3.のボールを繋ぐができないんじゃないかというので、痛し痒し。

2.個人能力において優位を持ち、ある程度組織的な守り方をするチーム相手にボールをつなげるか。 ○
これはうまくできた。中盤に遠藤、中村、長谷部、松井などのヨーロッパでプレーする選手を使っているので、これは普通。また1トップ玉田が自由にポジションを取って組み立てに参加するのを、オージーは最後まで掴み切れずにいた。なので、これに関しては成功と言える。ただ、オージーのコンディションと狙いが引き分けだったのもあるので、これがやる気と元気全開の相手だった場合につなげるかどうかはわからない。さらに、つないだところで結局3.が成功しないとジリ貧。求む強豪との親善試合。

3.高さにおいて優位を持つチーム相手に点が取れるか。 ×
取れませんでした。メインコンセプトの速攻に関しては、1.で書いたとおり、ほとんどなかったので企画倒れ。遅攻に関しては、試合を通して主導権は握ったものの、中央を突破することはほとんどなく、サイドからの攻撃に終始した。確かに田中、玉田がサイドバックの裏に出来たスペースに飛び出して起点を作り、そこにサイドバックが絡んでクロスを上げるのだが、中には玉田あるいは田中が一人だけぽつーんとしていることが多く、ニール&ムーアの胸毛(きっとすごい生えてる)コンビを相手にしろと言うのも無理な話。特に内田・ザ・鏡の中のマリオネットはタイミングのよい攻撃参加でしばしばサイドを突破したが、いくらホンキー・トンキーなクロスを送ってもこれでは点になる可能性は限りなく低いだろう。また、今のゼロトップ気味のシステムではサイド、あるいはボランチが引いてきたFWを追い越していく動きが重要となるのだが、松井、中村初号機の二列目にその意識は希薄で、主に田中だけがそれを狙っていた。しかし、あとは長谷部がちょろっと。ここら辺は人選の問題なのか、意識付けの問題なのか。たぶん、両方。片サイドの中村初号機が固定なら、逆サイドには飛び出せる選手を置くのが常識的だとは思う。ただ、それで点になるかどうかはよくわからん。というか、このレベルのチーム相手に陣形整えられたら、そうそう点は取れない。そして、シュウォーツァーはやっぱりすごい。日本と一番差があるのはこのポジションかもね。

4.高さ、個人技を持つ相手に守備は破綻せずに守りきれるか。 ?

これはわからない。オージーは前述のとおり引き分け狙いなので、本気で攻撃したのは数えるほど。さらに、先発2トップに起用してきたのが、ケーヒル&ホルマンのセカンドトップタイプだったために、オージー自慢の肉弾戦は起こらず。ケーヒルはさすがに器用にポストプレーを何度かこなしてチャンスを作っていたが、この人をそんなことに使っちゃ駄目でしょ。というわけで、これもよくわかりません。ただ、セットプレーは結構あぶなかったね。ニール強すぎ。


というわけで、試金石という割にはけっこう厳しめの評価が出てしまった。うーん、あんまり本戦には期待しないほうがいいのかな。引き分けという結果以上の煮え切らない感をおぼえる人は、似たような感想を持つのではないだろうか。

後、気になったのはオージー。コンディション不良・ゲームプランという足かせはあったにせよ、あまりにあまりな内容だった。相変わらずピムは常識的なチームを作り上げてはいるが、引き出しの少なさもいつもどおり。ワールドカップにはほぼ当確。ただ、本戦では違う監督になっている可能性が高いね。そういや、イングランドの青いチームの監督が変わったね。


■picture of player 中村初号機
不調だったのかなんなのか知らんが、非常に存在感がなかった。厳しいマークをつけられると気配が消えてしまうのはドイツ以来変わっていない。確かに必殺のハイクロスを送る相手もいないんで困るのはわかるのだが、このチームは君と心中なのだから、もうちょっとしっかりしていただかないと・・・。内田のジャスト・ア・ヒーローな髪型にびびったのかしら。