監督交代を成績という観点から見る | picture of player

監督交代を成績という観点から見る


たまにはまじめなのも書かねば。(普段は真面目じゃ以下略)


J1、J2が大詰めを迎え、優勝・昇格・降格争いが白熱している。
しかし、それとは別に今年特に目立ったのは、シーズン中の監督交代だった。
今シーズン、J1ではC大阪、京都、福岡、広島、千葉、磐田、FC東京、横浜FM、J2では横浜FC、湘南、徳島、神戸で実に13チームもの監督が交代している。
これほど多くの監督が代わったシーズンは初めてだろう。


とかく、成績が悪いと監督を交代したがるわけで、また実際にこれだけの人が代わっているわけだが、これに関して前々から疑問だった点がある。
それは「はたして、シーズン中の監督交代は効果があるのだろうか?」というものだ。
スポンサーからのプレッシャーや、親会社の意向、サポーターのバス囲みなどにより、やむを得ず、という場合も多いようだが、さて、この監督交代、どれほど成績に効果があるのだろうか?
まず、監督交代がどういう場合に行われるのかを見てみよう。
そのパターンを類型化すると、大きく2つのタイプに分けられるだろう。



1.成績以外の事情による交代
今年の中では、神戸のバクスター監督と千葉のオシム監督が当たるだろう。
ともに、家族の健康問題、代表監督への就任と、やむにやまれぬ事情があって、チームを離れるケースである。
この場合、成績不振が原因ではないため、チームの骨格は維持されることが多い。
ただ、表向きの理由が「健康のため」などであっても、実質的にはクラブ会長などとの確執が原因であるときはこの限りではない。
しかし、どちらにしても絶対数は少なく、レアケース。


2.成績不振による交代
ほとんどの監督交代はこちらだろう。
上の2チームを除いた残りすべてのチームが、大なり小なりこの理由で監督が交代している(横浜FCは微妙だが)。
これは勝利を目指すという至上命題があるサッカークラブでは、ある意味やむを得ない交代理由だ。
「勝てない」という理由があるから、交代もしやすい。
このケースでは、チームの骨格は残る場合もあるし、ばらばらになるケースもある。
そこらへんはチームの作り方、後任人事、シーズンの残り期間など、様々な要因が絡んでくるので、詳細に分析し切ることは不可能だろう。
そのため、ここではさらに以下の3つに大雑把に分けてみることだけにする。


2-a.チームの方向性が見えない
これに該当するのは、磐田、横浜FCなどだろうか。
成績はそれほど悪くない、もしくはまだ序盤で余裕があるケースがほとんど。


2-b.ショック療法
横浜FMなどがこの代表例か。
マンネリなどにより、チームに停滞感が漂う場合には、成績がそれほど落ちていないにもかかわらず、監督が交代する場合がある。


2-c.成績が悪すぎてどうにもならないむしろ死にたい
解任の場合、これが一番多いのではないだろうか。典型例は京都。
チームの方向性もわかるし、停滞してもいないのだけれど、どうにも結果が出ない場合の最終手段として使われる。
大体の場合、苦渋の決断となるか、ほとんどやけっぱちであることが多い。


上記のように、大体3つくらいに分類されると思うのだが、理由がどれか一つだけという場合はありえない。
ほとんどの場合は2-a.、2-b.、2-c.という要因が複合的に絡まりあっている。
たとえばC大阪は、成績も悪かったし、ショック療法という面もあっただろう。
各チームが置かれた状況によって、その色合いが変わってくる、ということを理解してもらえればよい。



さて、本題である。
冒頭に記したとおり、今回のテーマは「はたして監督交代が効果があるかどうか?」である。
わかりやすい指標の一つとして「監督が代わる前と後の成績」を見てみよう。
以下の図を見ていただきたい。

成績


監督交代以前と以後の成績を比較したものである。
*参考としてJ1首位の浦和のデータを入れている。

1試合の平均勝点が交代前より上回っているものは黄色、交代後より下回っているものもしくはほとんど同じものはグレーとしている。


じじいをカピタンに強奪された千葉や、娘さんの健康状態を理由に交代した神戸など、成績以外の理由で監督を奪われたチームはやはり成績がダウンもしくは停滞していることが、興味深い。
やはり、フットボールチームは突然の変化には耐えられないのだ。
さらに、ダメダメだった印象のガーロ監督時代よりも成績が下がっているFC東京、明らかに負けが込んでいるように見えた福岡が微増しているのも、意外な点だった。


そのほかは、一見、成績が上向いているチームが多いように見える。
しかし、横浜FCは交代前がたった1試合(笑)であり、また、徳島・京都は試合数が少なすぎて参考にならない。
そうなると、確実に成績が上向いているのは、C大阪、広島、磐田、後は試合数が微妙だが、横浜FMの4チームとなる。
ただし、それも微増がほとんど。
その中でも目覚しい成果を出しているのは広島だけだろうか。
他のチームは、もし前の監督がそのまま続けていれば、同じような成績を達成できたかもしれない。
結果が出ているのが13チーム中4チーム、しかも目に見えて成績が上がったのは1チームだけというのは、随分と割の悪いギャンブルではないだろうか。



もちろん、監督交代の目的は成績向上だけではない。
若返りやチームの再編、目に見えない部分での変化も起きているだろう。
内容的に向上しているけど結果がついてこない、という場合もあるに違いない。
それが来季以降の成績につながっていくのだろうし、実際に、広島、磐田、千葉、横浜FMなどは、若手の登用や戦術上の冒険など、意欲的な仕事をやっていると思う。
特に、チームの大規模な再編を行いながら、成績も目に見えて向上させるという、両立しがたい仕事を同時にこなしているペトロヴィッチ監督は賞賛に値する。


しかし、裏を返せば、それくらい優秀な監督を引っ張ってこれなければ、監督交代は短期的な成績の改善には効果がほとんどない、ということになる。
特に、追い詰められてからのぎりぎりの選択になってからでは、ほとんどの場合が手遅れ。
まがりなりにもシーズン前にキャンプを張って作り上げてきたものは、想像以上に大きいのだ。
その一方で、監督を交代しないということ選択も逆の意味でギャンブルなのだが、もしチーム状況を劇的に変える公算がなければ、単なる金の無駄になる可能性は高い。
成績が悪くても、単にチームの実力がその程度、ということが往々にしてあるからだ。


結局、勝てなければ監督が批判されるわけだが、そこで安易に監督を交代をすることは、一瞬のカタルシスは得られるかもしれないが、目に見える結果をもたらすものではないと、肝に銘じなければならない。
要するに、長期的なプランをしっかりと作れる頭がクラブの幹部には必要だっていう、当たり前の結論。


■クラブ幹部に送る監督交代チェックシート■
1.ギャンブルであることを理解していますか?
2.交代によって目指すべき明確な目標はありますか?
3.前監督のどこが悪く、今後どう改善すべきなのか言えますか?
4.新しい監督は優秀ですか?戦術的な目標がはっきりとし、短期間でチームをまとめ、チームに勝利をもたらすことができますか?
5.安易にコーチを昇格させようとしていませんか?
6.監督交代によるデメリットを3つあげることができますか?
7.来季以降にきちんとした構想を持っていますか?
8.サポーターのバス囲みにびびってませんか?
9.成績は短期的に悪化する可能性が高いですが、我慢できますか?
10.自分のところだけは大丈夫と思っていませんか?




ちなみに、これはある監督の就任前と就任後の成績。

名将

これくらいの監督ならもろ手を挙げて大歓迎だけど、宝くじ並の運が必要かもね。