試合短評 日本-イエメン(アジアカップ予選) | picture of player

試合短評 日本-イエメン(アジアカップ予選)

■日本2-0イエメン
■短評

オシム監督になってから初の公式戦は、難しい一戦となった。


日本は4‐4‐2のフォーメーションで、DFが右から加地、坪井、トゥーリオ、駒野、MFがアンカー気味に鈴木でパートナーに阿部、オフェンシブな位置に遠藤と三ちゃん、2トップが巻と田中達也。対するイエメンは5バックで、攻めて来るのは前線の2~3人だけ。イエメンについてはまあそういう戦い方をするしかないわけで、覚えているのはノノっていう10番の選手の名前がかわいいということくらい。


前半はぐだぐだ。予想通りにがちがちに引いて来たイエメンは、5バック+ボランチ2人でPAライン付近に防壁を築く。ただ、水も漏らさぬカテナチオというわけではなく、アジア版のアジナチオ程度のもので、一旦楔にボールが入るかダイレクトプレーが続くと全体がそれに釣られてしまって、簡単にマークを剥がしてしまう。しかし、日本は「考えて走るサッカー」の看板に偽りありの効果的な運動量の少なさで、ボールを追い越すなどのフリーランニングは散発的。また、ボールホルダーが受け手を探す場面が目立ち、その間にそれほど反応のよくないイエメンのDFに陣形を整えさせる時間を与えてしまった。また、攻撃も中央に偏りすぎていて、遠藤や加地の個人技からチャンスをつかみはしたが、それもあくまで単発で、連動した攻撃をしかけられたのは前半では数えるほどでしかなかった。特に気になったのは、2列目にポジションを取った遠藤と三ちゃんの動きの悪さで、2トップに対して効果的なサポートをすることはできず、特に三ちゃんはなまじドリブルでキープできる相手のために、ボールを持ちすぎる「ブラジル病」(不治の病)を再発させ、攻撃のリズムを再三遅らせていた。元々判断の悪かった選手だが、明確なタスクを与えられてないあの位置では厳しいか。2トップについてはサポートが少なかったので、無得点もやむを得ないところ。ただし、それでもいくつかつかんだ決定的チャンスを決められなかった巻は猛省すべし。


後半開始から、思い切りの悪かった駒野を下げ、羽生を投入。阿部をDFラインに下げ、遠藤を一枚下げて、形の上では3‐5‐2に。ハーフタイムにじじいから雷を落とされたのか、これで日本は吹っ切れたように攻撃の速度を早める。特に羽生の動きはチームの原動力となり、2トップに近い位置でサポートをし、中盤からのボールを受け、サイドに流れて起点を作った。サイドに流れた場合には、大抵三ちゃんに無視されていたが、なんか昔にいざこざでもあったのか。女の取り合いとか、唐揚げの取り合いとか。ともかく、羽生がDFを引っ張ったおかげで前半目立たなかった田中と巻にボールが入るようになり、そこからの展開でサイドに起点を作れるようになった。特に遠藤、三ちゃんという前半悪かった選手が、それぞれの元のポジションに収まって役割が明確になったせいか息を吹き返し、前半よりはいくぶんましなボール回しを展開できるようになった。そして、トゥーリオ。浦和でぶち切れた時と同じく、狂ったように前線に上がり始め、後半の半ばには巻と2トップを形成。前線が詰まっている状況でその効果は甚だ疑問だったが、まあとりあえず前への意識は感じられた。そして、いくつかのチャンスを経て、70分にCKからニアに飛び込んだ阿部のヘッドで先制。この一点で吹っ切れたのと、遠藤を下げて飛び出せる佐藤1号を入れたことで、日本はようやく前線から流動的な守備ができるようになり、徹底的に押し込む展開。結局、追加点を取ったのはセットプレーからで、佐藤2号がらしい得点でとどめ。とにもかくにも勝利を得たという展開だった。そして川口は超暇そうだった。


暑い中で引いてくる相手に対して、結果を出せたことは素直に評価できる。ただ、内容はまだまだこれからという状態だろう。現段階では、効果的に連動してボールをつなぐサッカーには程遠く、全員が向いている方向がばらばら。これはひとえに個々人の思考スピードが一定になっていないからだ。新加入の選手はまだいいほうなのだが、「古い井戸」と言う呼び名に当てはまるかもしれない遠藤、三ちゃん、加地などのテンポがジーコ時代のそれのままで、ジェフ組、特に羽生や佐藤の頭の回転まで含めたスピードとは、現状でクラシックとドラムンベース並の差がある。ただし、遠藤、三ちゃんなどが個人のテクニックでどうにかしていたのも確か。彼らがジェフで言うクルプニコビッチのような「エクストラキッカー」の枠だと思うのだが、それでもイエメン以上を相手にした時にいつまでも彼らの個人技が通用するわけでもなく、スピードとテンポのアップは避けて通れない関門だろう。それと同時に、周囲の選手が彼らに選択肢を増やすような動きを多くできるよう、更に動きを増やすことが肝要だ。これは時間が解決してくれる問題だとは思うのだが、代表は知ってのとおり売れっ子漫画家並の活動期間の少なさ。古い井戸の体質変化を待つのか、まっさらな真水を一から鍛えるのか。ここらへんは許された時間と最終的なチームの最大成長値を見極めた上で、御大が慎重に判断していくことになるだろう。ただし、私個人としては、チームが一応完成するのに最低2年はかかると睨んでいる。だが、はたして、そこまでの忍耐力が果たしてメディアと協会、そして我々自身にあるのだろうか?


■picture of player 鈴木啓太
猛犬というにふさわしい運動量で中盤-前線-最終ラインを走り回った。元々運動量が豊富なこともあり、おそらくオシムサッカーへの順応度はジェフ組を除けばピカ一。頭に血の上ったトゥーリオのカバーリングをこなし、更には手詰まりになりがちだった攻撃に顔を出した時には必ずチャンスを生み出していた。相変わらずミドルシュートはあさっての方向に飛んでいくが、今後も代表に呼ばれつづけることは間違いないだろう。是非日本のガットゥーゾとしてオシムの首でも締めて欲しい。今後は今野、佐藤勇人とのポジション争いになると思うが、この中の誰が出ても遜色はないというような高いレベルの競争が展開されれば、日本にとっては朗報。髪は切ったほうがいい。