サガンシリーズ第8弾。主舞台はやっぱりパリ。三十代・独身のモテモテ新聞記者が主人公。「無駄に使われるお金しか好まない」とのたまう超洒脱で超傲慢な遊び人です。そんな華やかな都会生活をおくっていた彼ですが、突然すべてに倦怠し、不眠症になり、やがていまどきはやり?のうつ病にかかってしまいます。それにしても、この小説が発表されたのは40年前。いまでこそ、うつ病は現代病として一種の社会現象にまでなっているけど、40年前に、もはや取り上げていたなんて。ファッション、車、クラブ遊び…いろんな意味で時代の先端を突っ走ってたサガンの直感は、半世紀近くも後の時代の先取りというか予測もしていたということに。飛び抜けた才能と、研ぎ澄まされた感覚だけで生きていた人だから、企まずしてそんな風にのちの世ともシンクロできたんだろうなと。で、物語のほうは、うつ病の彼を癒してくれる美しくインテリかつ情熱的な上流階級夫人に出会い恋に堕ちる…というパターン。ただ、彼女への愛は真実でも長年の遊びグセのついた男から、やんちゃ坊主性は抜け切れず、ふとした行き違いからこの恋は悲劇を招きます。「あなたのせいではないのよ。わたくしはいつもちょっと熱狂する性質(たち)でした。あなた以外愛したことはかつてありません」という彼女の遺書を残して…。


フランソワーズ サガン, 朝吹 登水子, Francoise Sagan
冷たい水の中の小さな太陽