「ねぇ、君。」
「え……あ、あぁ、うん。何?」
届いた言葉が脳に響き渡ると、纏う空気の重さが急に軽くなった気がした。
そして、鼓動が妙に早く脈打つのが分かる。
奇妙な身体の反応に戸惑っているクオンの様子に気付いていないらしい鶏は、ゴクリと一度唾を飲み込んだ後、クオンに問いかけた。
「君が好きなその娘は、どんな娘なんだい?」
「………え?」
「特徴とか。どんな性格の子?」
「どうしてそんなことを聞くんだい?」
問われた内容に不快を感じない。隣に座る鶏になら、何でも話してしまいそうな自分自身が信じられないまま、心に浮かんだ疑問をそのまま口にしていた。
「好きな人のことを想えば、幸せにならないかい?」
「え……?」
「少なくとも、僕はそうだ。大好きな人のことを想えば、幸せになる。」
「……………。」
どうしようもなく苦しくなった時。絶望に打ちひしがれた時。
それでも、瞼の裏に閉じ込めた、大きな瞳の女の子の姿を思い浮かべれば……
「………彼女はね。」
「うん。」
「よく、泣いていた。」
―――あなた、妖精!?―――
そう言って、クオンが立つ川辺に現れた少女は、大きな瞳にいっぱいの涙をためていた。
「でも、すぐに笑顔になってね……。」
―――見て見て、レン!!可愛いお花が咲いているわ!!―――
少しの弱音を吐いたら、すぐに立ち直って『楽しいこと』を見つけて満面の笑みではしゃぐ。
「フフッ、切り替えが早いというか、なんというか……。コロコロ表情が変わってね?それがとっても可愛いんだ。」
キョーコを見ていると、落ち込んでいる暇などない。
泣く女の子を前に、少しだけ動揺して、慣れもしない言動で励まして。
面白い物を見つけて駆けだす彼女が転ばないようにと慌てて追いかけて。
『可愛い』、『綺麗』と、何でもない小さな世界の美しさを見つけて笑う少女こそが、可愛くて、とても綺麗で。
そして、自然と笑っていた。
「彼女といると、世界が愛おしく思える。」
全てがクオンの敵だと思えた瞬間さえあったというのに。
少女と過ごした数日間は、クオンを生かす世界の色を変えた。
己に課せられた運命に向き合い。
背負う使命以上の成果を上げ。
そして……
「彼女と、一緒にいたいんだ。」
早く大人になって。
迎えに行くと決めた。
彼女が誰なのかを突き止める、大いなる権力を得て。
そして、あの娘をこの手にすると。
そう、決めていたのだ。
「でも、よく考えてみれば、俺のこの想いは一方通行だったんだよな。」
彼女が一般的な貴族の娘であったならば。
クオンが手にしたその力は、彼女の意志さえも無視してしまえるほどの力がある。
そして、無意識化にそれを理解し、安堵していた自身の醜さも理解した。
それは、きっとタカラダの面々が彼に正体を明かし、『敵』として立ちふさがってこなければ気付くことはなかったことだろう。
王太子という身分でさえ、脅威になることのない人物を前にすると、クオンはこんなにも非力だ。