いつか…(2-2) | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「コレットさん……。」

 患者の様子を慎重に診て回るセラを見つめていると、クイクイ、とスカートの裾を弱々しく引く感覚がある。

「あら、起きたの?」
「うん……。」

 そちらに視線を向けると、村の少年がうっすらと瞳を開いている。
 まだ熱が高い6歳くらいの少年は、苦しそうな息を吐きながら、コレットを見つめていた。

「どうしたの?しんどい?」
「ううん……だいぶ楽になった。ありがとう、コレットさん………。」
「そう。もう少ししたらもっと楽になって、元気になれるわよ。もうちょっとの辛抱だからね?」

 弱々しいながらもしっかりとした受け答えに、彼の快復が見える。そんな彼の様子に安心して、笑顔を向けたコレットに、少年は静かに目を閉じた。

「……どうしたの……?」

 その閉じた瞼から、うっすらと水滴が浮かび、流れおちる様を見て、コレットは静かに問うた。

「僕……お母さんに言われていたんだ。お隣の家に遊びにいっちゃいけないって………。」
「…………。そう。」

 彼の隣の家には、彼と同じくらいの年齢の少年がいた。
 その少年と家族は、1年間、遠く離れた地まで赴いていたのだという。
 そして帰ってきて一週間後。突然、家族全員が風邪のような症状となった。風邪かと油断したその翌日には、信じられないほどの高熱を発し……。

「それなのに、僕……。遊びに行っちゃって……。僕、あいつと友達だったから……。」
「……そっか、遊びたかったんだね。」
「………うん。」

 そういえば、その家に入って患者を診ている最中に、女性の怒鳴る声と少年の叫ぶ声を聞いた気がする。
 それを気にする余裕は、その時のコレットにはなかったが。

「お母さんの言う事を破ったから……。こんなことに、なっちゃったのかなぁ……?」
「う~~ん……そうねぇ………。」
「お父さんもお母さんも、僕のこと、呆れちゃったかな?」

 この少年の家も、彼の発症に始まり、父親も病に倒れた。だが、初期の段階で判明し、体力も十分にある人だったので、風邪薬で十分に治ってしまった。今では息子の帰りを今か今かと待っているはずだ。

―――どうしてこの子と離れなければならないんですか!?この子は私たちの子どもですよ!?―――

 だが、少年は悪化の一途をたどり、コレットの判断で診療所に搬送することになったのだ。それを伝えた時に、叫んだ母親の言葉。
 それに対して、コレットが伝えた言葉は……。

「お母さんの言う事を破ったのはよくないことね。」
「………うん。」
「でも、君はどうして言う事を破ってしまったの?」
「え?」
「コレットさんが当ててあげましょう。」
「………。」
「『遊びに行ってはいけない』って言葉に、納得できなかったんでしょ?」

 笑顔で少年に問うと、彼はしばらくの沈黙の後、コクリとうなずいた。

「君のお母さんも、君とこうして離れなければならないって伝えたとき、すごく反対したわ。泣きながらあなたについていくって言った。」
「そうなの?」
「えぇ、そうよ。でも、お母さんのお腹の中には、君の兄弟がいるのよね?」
「……うん。」
「万一、お母さんにうつってしまっては、お腹の赤ちゃんにも影響がでる。だから、君は今、この診療所に一人でいる。」
「……うん。」
「……ね?分かる?」

 にっこりと笑って少年に問うと、少年は弱弱しく右手をコレットに差し出してきた。
 その手をコレットも握りしめる。

「お母さんは、僕のことを呆れたわけじゃない……。」
「うん、そうね。」
「僕が悪かったのは、遊びに行ったことじゃなくて、ちゃんとお母さんに、理由を聞かなかったからだね……。」
「……うん。」

 ぎゅっと、コレットの手を握りしめた少年。瞼を閉じた少年の瞳から一滴の涙が流れていった。

「ありがと、コレットさん………。」
「ううん。……さぁ、ゆっくりお休みなさい。」

 コレットの優しい言葉とともに、少年は静かに眠りにつき始めた。
 その手を握りしめながら、コレットは冥府での出来事を思い出す。

 和やかな空気の中、響きわたったハデスの怒声。

―――ならんっ!!-――

 あの、怒りの声と思った言葉には。
 どこか、焦ったような響きも含まれていたのではないだろうか。


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