sei様とのコラボ~愛しき娘のいる場所は(19-1)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 吹き抜ける風は、少し熱を帯びるようになっていた。



 マロニエの花が咲く季節には、風はまだ涼しさを感じるくらいであったのに、今は何もせずに座っているだけで汗ばみかけている。



 美しい花が咲いた時、クオンの心はそれ以上の満開の花が咲いていた。



 10年前。

清らかな河原で出会った、可愛らしくも聡明な、天使のような少女。

 その少女が、美しく成長し、クオンに会いに来てくれる。



 そう信じて疑ったことはなかった。



 だが、それから3カ月経っても会う事は叶わず。



 そればかりか、すれ違いになってしまい、会う事を阻害されてしまうことにまでなってしまった。



「………はぁ………。」



 口を吐いて出てくるのは、深い溜息。



 クオンが望んでいたことは、ささやかなモノのはずだった。



 何でも手に入る身分に立つことは、すでに決定事項だった。

 それでも、クオンが心の底から願ったのは、たったひとつだった。



 だが、それさえも、得る身分からすれば『ささやかなモノ』のはずだ。



 ―――たった一人の、女の子―――



 どれだけ手塩にかけ、蝶よ、花よと育てられた令嬢であったとしても。

 王太子が望めばその親は、一もニもなく喜んで差し出してくれただろう。



 『舞踏会で見初めた』、『王族への拝謁の際に心奪われた』……



 偽りの『きっかけ』は、いくらでも浮かべることができる。

出会う事さえできれば、どれほど無垢なる花であろうとも、手折ることは容易い。



 それなのに。



 その後、社交の場にデビューをしてもおかしくない年齢に達しても、唯一求めた少女はクオンの前に現れることはなく。

 

痺れを切らしかける頃、家庭の事情を知り、それならばと秘密裏に会い、彼女を守りながら、無垢なる乙女の全てを奪うことを画策しても、すれ違い。



 その結果、敵に回してはならない者達を敵に回してしまった。



 これは神の試練か、悪戯か……。



「…………。はぁ……………。」



 口から突いて出るものは、溜息ばかり。



 ……神の試練にしても、悪戯にしても。



 山積する執務。

 毎日のように柔和な笑みを浮かべながら嫌味を言いに来る宰相。

 クオンの身を案じながらも発狂しかけている相棒。

 キョーコの居場所を問うても「知らぬ、存ぜぬ」を通す王太子宮に仕える面々。



 ………これはさすがにクオンに分が悪いのではないだろうか………










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