『敦賀蓮』とは。
いまや日本を代表するスーパー俳優。
華麗にして優美。
抱かれたい男NO.1であり、彼に視線を向けられて堕ちない女性はいないだろうと言われるほどの今、最も艶やかなる男である。
………世間一般で言えば。
「………蓮君、蓮君。」
「シッ、社さん。声が大きいです!!見つかったらどうするんですか!!??」
「……いや、むしろお前の声のほうが大きい気がする。」
舞台俳優ではないわりに、完璧な呼吸法を身に付けている上に、艶やかにしてよく通る声の持ち主だ。彼が小声で話しかけようとしても、なぜだか声がよく聞こえる。
「……俺、今後お前に探偵役の打診があっても絶対受けない。」
「今は仕事の話はどうでもいいんです!!あ、行きますよ、社さん!!」
コソコソと、事務所内の柱の陰に隠れているつもりのようだが、規格外の身体が完全に隠れているわけがなく。
「……バレてるじゃないか。完全にバレているのに、何でコソコソ後をつける必要があるんだ?」
気付いていないのは、視線の先の人物に釘付けで、にこにこと愛らしい笑みを浮かべている少女だけで。その隣に立つゴージャスオーラ撒き散らすハリウッド・スターは、先ほどからわざとらしいくらいに彼らの背後であるこちら側を見てきている。
そして、下手くそな尾行をしている(つもりの)担当俳優は、先ほどから周囲の人物たちにジロジロと見られている。
彼ら・彼女らは一様に。
まず、柱の影にいる美形俳優(敦賀蓮)の存在に驚き。
そして、彼が敵にむけるような視線で睨みつけている先(ク―・ヒズリ)を見て。
……生温かい視線となり、時にほろりと涙をこぼし。時々「負けないでね…」「頑張れ…」と、小さく声援を残して去って行く。
「…………………。はぁ……。」
それら小さな声援は、視線の先の人物への呪詛(と思われるもの)に夢中の担当俳優の耳に聞こえるはずもなく。
担当マネージャーたる社が、「どうもありがとうございます。」と乾いた笑いと共に礼を述べることでやりすごしている。
「蓮君。そろそろ『敦賀蓮』に戻ってもらっていい?」
「3分あったら戻りますから。もうちょっとだけこのマリアちゃん秘伝の呪詛を……。」
「…………マジで呪詛かよ……………。」
キョーコの呪いに比べると、性能が悪いと思われるマリアの呪詛だ。
それほどあの輝かしいハリウッド・スターに影響を与えるものにはなりえないとは思う。
だが、呪いまで持ち出してコソコソ影から害を与えようとしている目の前の男は、果たして世間一般の評価に値するだけの人物なのだろうか?
「あ~~~…蓮君、君ね?」
「何ですか!!邪魔しないで欲しいって言っているでしょう!?」
「うん。邪魔したいわけじゃないけれど。それ、続けていたらキョーコちゃんに声かけることもできないぞ?移動まで後10分もないんだからな?」
「やぁ、最上さん。こんにちは。」
「って、早っ!?え、何それ、瞬間移動!!??」
ネチネチ、ウツウツと呪いの言葉を呟き続けていた男は、社の言葉で瞬時に爽やかな風を自力で発動させながら、キュラリと輝く笑顔でかわいい後輩タレントに声をかけに行っている。