「じゃ、俺は席を外すわ。」
「「え?」」
「蓮。後、5分。この部屋には何人たりとも寄せ付けないから、話したいことがあるのならやっておけ。それじゃ。」
「ありがとうございます。」
君が俺を拒絶しても、俺は君を離しはしないよ?
「キョーコ。」
「あ、は、はい。」
「今日だよね、『だるまや』のご夫妻が、帰って来るの……。」
君が信じられないと嘆くなら、俺は信じてもらえるまで囁き続ける。
「あ、そうなんです。結局、3カ月間も日本全国を旅していらっしゃいましたからね。えっと…今日の20時の便で東京駅に着く予定です。私はセバスさんと一緒にお迎えに上がることにしています。」
「………ごめん、その。俺も同席したいんだけど……。今日は25時上がりの予定なんだ。」
「す、すさまじいですね、最近。あの、お身体は大丈夫ですか?」
「ん。俺は大丈夫。でも、社さんは心配かなぁ?最近、栄養ドリンクばかり飲んでいる姿しか見ていない気がする……。」
「うっ……。でも、全然そんな風に見えませんよね。いつも通り穏やかで爽やかでしたよ。」
「俺みたいに、身体も心も満たしてくれる恋人が早く見つかればいいんだけれどね。」
『君を一人にしない』、『愛しているよ』って。
「むぅ。……何だかその表現は厭らしいです……。」
「え?そう?クスクス…でも、ここしばらく抱き枕になってくれていたじゃないか。癒されたよ、羊枕以上に。」
「も~~~~!!敦賀さん!!どうしてまた羊ネタを引っ張り出してくるんですか~~~~~!!私の後悔と後悔と後悔の塊でしかないものを~~~~~~~~!!!!」
「あれ、恥ずかしいのはそっちなの?……キョーコのスイッチって本当に難しいよね。」
……君が例え、再び忘れてしまっても。俺は覚えているよ。
「も~~~!!」
「あはは…。それよりも。あの…お二人に今日…というより明日、になるか。…深夜になるけれど、お店にお邪魔していいか、確認をとっておいてもらえないかな?疲れているところを、申し訳ないんだけれど。」
「ふぇ?」
「あいさつ、しておきたいだろう?俺はキョーコの恋人なんだから。」
「……………。」
「それに、大将と女将さんには本当に、お世話になったから。キョーコのこと、これからもしばらくお世話になるんだし、大人としても、男としても。ちゃんとあいさつさせて。」
「………はい。」
大切な人達と。そして君と紡いだ、大切な日々を。
「……それじゃあ、また。今晩。」
「はい、敦賀さん。……いってらっしゃいませ。」
「うん。いってきます。」
そして、これからも一緒に紡いでいこう。俺達の住む、大切な世界の中で……
この、かけがえのない日々を。
(かけがえのない日々 FIN)