「だからね?俺、随分と頑張っていたんだよ?」
無防備全開の可愛らしい小動物が美味しそうにうろついていたとしても、表情にも出さなければ、行動にうつすこともなかった。
時々、ガス抜きのような戯言の中に本音を吐露しても、相手にさえしてもらえず、バッサリと切って捨てられていたものだ。
たまに甘い期待をしても、『学習能力』という言葉で、全て気のせいにして。辛抱強く耐え忍んできた。
「褒めてほしいし、ご褒美もほしいところだなぁ…。」
「????あ、あの、何のお話ですか!?というより、あの、その、ちょっと、つ、敦賀さんっ!!」
押し倒した少女の左頬に、自身の左頬をこすりつけ、そのまま少女の首元に顔を埋める。
いつもの自身の寝台の匂いと、彼女の甘い香りが混ざり合い、次第に気分が高揚してきた。
「ん?」
「く、くすぐったいですっ!!それから、あああぁあまり耳元で話さないでくださいっ!!こ、腰が抜けそうです~~~~!!」
「クスクス、そう……。」
この絶好の機会。満開に咲いた美しき花を、手折ることは容易い。
容易い、ことだけれど……
「君の、嫌がることはしないよ。」
「ふぇっ?」
「君が嫌だと言えば、何もしない。こうして傍にいてくれたら、それ以上を望まない。…今は、まだ。」
初々しい女の子。
天然記念物だと称してきた乙女が、寝台の上での男女の行為を、全て理解しているとは到底思えない。
そもそも、若い男と同居をしていたのに、綺麗なままでいた女の子なのだ。
『穢れた』と自分で口走っていたこともあるが、これほど綺麗なまま大人と子どものちょうど間にいる少女は、稀なのではないだろうか?
「あ、あああぁあのっ!!」
「ん?」
「わ、私っ!!そ、そのっ!!確かに、その……!!分からないことが多いですしっ!!正直、今、頭の中はパンパンと謎の音が鳴りっぱなしですし、理解不能の現象があちこちに起きていますけれど!!」
「………うん。」
動揺しまくるキョーコが挙動不審なのはいつものこと。
一生懸命話してくれる内容も、正直、蓮には理解しがたいことばかりだ。
「でも、敦賀さん!!わ、私……!!私、あなたにされて、い、嫌なことなんて、きっと、絶対に、な、無いと、思うんです!!」
「……………………………。」
なのに。
なぜ、この憎らしいほどに可愛らしく、愛おしい存在は……。
「っ!?つ、敦賀さんっ!?え、わ、私、何か失礼なことを言いました!?」
「……………。キョーコ……。」
「ひょえっ!?は、ははは、はいっ!!」
思わず低い声で名前を呼ぶと、押し倒したままの少女はぎゅっと目を瞑った。カタカタと震える唇が小さく動いて「す、すごい無表情だわ……お、怒らせた……?」と呟く声も拾ってしまった。
「できれば、俺は、君を傷つけたくない。」
「そ、そうです、か……。」
「痛い想いも、させたくない。」
「??は、はい…。わ、私も、痛いのは好きじゃありませんが………。」
「……うん。だから。君の覚悟が、決まるのを待ちたいんだ。」
きっと、このまま、キョーコを思うままに抱いたとしても、キョーコは蓮を受け入れてくれるだろう。
痛みさえも受け入れて、蓮のものになってくれる。
―――わ、私……!!私、あなたにされて、い、嫌なことなんて、きっと、絶対に、な、無いと、思うんです!!―――
その言葉に、嘘はないだろう。
だけど。
「で、でも……。それなら、私は……一体、何をすれば、いいんですか………?」
「ここにいてくれたら、それでもう充分だよ。」
本当は今夜、このマンションに一緒に来てくれただけで満足だったのだ。
彼女を愛していると言う男の、プライベートゾーンに踏み込んでくれ、そして、花が開く瞬間を見せてくれたのだから、それでもう充分だ。