「…………………。」
「れ、蓮君、蓮君。ちょっといいかな?お兄さんのお話、聞いてもらっていい??」
「……………どうぞ。」
「蓮君、あのね。今から雑誌取材だから。お願いだから、そんな暗殺者のような…いや、闇の国の王者のような……あ、違うな。えっと、大魔王のような表情、やめてくれない?というか、俺のブリザードなんか目じゃないくらいの冷気が吹き荒れているからさ?そもそも、元とはいえ、事務所の大先輩である相手に対する目つきとしては超ヤバいから!!頼むから、ちょっと眼の奥の殺意を抑えてくれっ!!」
「敦賀蓮としては完全にアウトだから~~~~!!!」と、優秀なるマネージャーが顔を真っ青にしながら懸命に叫んでいる。
胃痛も限界と、ヨロヨロとしている蓮のマネージャーは、この数日で蓮から見ても分かるほどにやつれてしまった。
「敦賀君。」
「……何ですか、ミスター。」
「君もなかなかに大人げないな。もう少し紳士たる自覚があると思ったが、私の過剰評価だったようだ。」
「あなたも大概、大人げないですよね。俺の気持ちなんて充分にご存知でしょうに、よくも毎日毎日、煽るような真似をしてくださいますね。」
「ほう?君の気持ちとは何のことかな?」
「!!決まっているでしょう、最上さんのことですよ!!」
「私の可愛い娘がどうかしたか?」
「あなたは彼女の父親ではありません!!」
―――むしろ信じたくないが、俺の父親だろうがよ!!この天然タラシ野郎が~~~!!!―――
という言葉は、口に出しては言わなかった。
言わなかったが、目が口ほどに物を言っていたはずである。
案の定、社は『父親云々』は別として、蓮がク―に対して殺意を抱き、その上、内心で侮辱していることを察したようでガタガタ、ブルブルと震えている。
「……敦賀君。」
「なんですか!!」
「もちろん、私は彼女の本当の父親ではないよ?」
「……えぇ。」
「だが、私は彼女を実の娘だと思って可愛がっているし、彼女は私を実の父親だと思って接してくれている。」
「……えぇ、その通りですね。」
それは分かっている。
父親の愛情というものを知らない愛しい少女が、少しの間、親子ごっこをした相手に、全幅の信頼を寄せていることも分かっている。
「だから、私は娘に近付く悪い虫を撤去することに余念はないし、邪な感情を抱き、先輩風を吹かせながらやたらとスキンシップをとりたがる如何わしいケダモノから守り抜くことを使命としているつもりだ。」
「……。そのケダモノとは俺のことではないですよね?」
「ん?自覚はないのか?」
ギロリと睨みつける青年の視線を、にっこりと笑って受ける壮年の男。
「俺はケダモノではありません!!そもそも、あれくらいの接触は俺達には当然のことなんです!!」
ぺこりとお辞儀をしながら礼儀正しくあいさつをするキョーコを目にとめたら。
まずは頭をなでなでして。
なでなでしてあげたらちょっぴり照れたような表情を見せてくれるので。
今度はすっぽり身体を覆い尽くして軽いハグをする。
人目がなければキョーコに気付かれないようにつむじに口付けするのを忘れない。
それに対してちょっぴり怒るキョーコを宥めながら、事務所内ならば軽く手を振って別れて。
時間があってラブミー部室にいるのならば、とりあえずパイプ椅子に座って、お茶を淹れて持って来てくれたキョーコを膝抱っこだ。
嫌がる仕草を見せるのだがそれを押さえつけて、しばらく彼女の身体に厭らしい気持ちが目覚める直前くらいの絶妙な間合いで触れ、彼女の匂いを堪能する。
ヒール兄妹の際には、彼女の方から膝に腰かけてきたり、身体に絡みついてきたりしていたのだ。移動の際には必ずカップル繋ぎをするし、場合によっては、姫だっこだってしてみせた。
ベタベタ、イチャイチャしていた期間があったのだから、これでもかなり妥協をしている方なのである。
「(敦賀蓮としては唇への)キスもそれ以上のこともまだしていないんです!!ケダモノ呼ばわりされるのは心外です!!」
近くで社が、「ヒェ!?お、おまっ、な、何言っちゃってんの!?」と叫んでいたが、無視して蓮は目の前の敵を睨みつける。
キョーコに『父』と認められていようが、血のつながらない男であれば、誰だって敵だ。
父親とは、血が繋がっていたところで、ある意味敵になりうる存在だが、この目の前にいる人物は、この世で最も厄介な、愛しい相手の『父』であり、その上で血がつながっていない、間違いが起こる可能性が0%とは言い切れない、最大最悪の敵なのだ。