「………………。」
キョーコは、パジャマの胸元を抑える手が真っ白になるほど力強く握りしめる。
―――キョーコが来ている服は、美しいドレスではない。
どちらかといえば、不格好なパジャマ姿だ。
―――キョーコは決して、誰よりも美しいわけではない。
周囲を見回せば、蓮に似合う美女が、山といることは分かっている。蓮の美しさの前では、キョーコなど霞んで見えない存在になってしまうだろう。
―――キョーコは誰からも愛されているわけではない。
むしろ、憎まれて突き落とされることまである始末。そもそも万人に愛されるほどの心の豊かさを持ち合わせていると、キョーコ自身が思ってはいない。
……初めは誰よりもボロボロの服を着ていて不幸でも、最後は誰よりも美しくなって、誰からも愛されながら、王子と幸せに暮らす「お姫様」のお話が大好きだった……
そして…いつか。
―――いつか、私も「お姫様」みたいになりたい―――
それが、キョーコの夢だった。
でも、現実は決して、夢のようにはいかなくて。
美しいドレスを身に纏えることもなく、誰よりも美しくもなれず、全ての人から愛されることはできなかった。
「……それでも……。」
醜く、ほの暗ささえ感じるような想いを。
相手の幸福を祈ることができない、最低最悪の感情を持ち合わせていても。
それでも、キョーコの前に、王子様は現れた。
そして、その王子様は、強引にキョーコを奪っていくことはなく。
扉一枚隔てた向こう側で、キョーコが来るのを待ってくれている。
「……………。」
キョーコは、大きく息を吸い込むと、今度こそ扉の取っ手を掴み。
その重厚な扉を、開いた。