「それぞれに、作った料理の説明をいただいてもいいかな?」
「はい!!まずは私から!!」
遠く離れた場所からカナエと大将の妻が見守る中、王はとうとう料理に手を伸ばそうとしていた。
王の言葉に進み出てきたのは、豪奢なドレスを着た少女の方であった。
印象からいって、彼女から話し始めることは想像しやすいことである。
「こちらは、王太子殿下のあの麗しい御姿を現しました、飾り細工の一品でございまして、こちらはかの有名な………」
王は、延々と続く王太子を褒め称える言葉と、流行の最先端をいく芸術作品の名を聞きながら肯く。
話を聞きながら料理を食べる。
どれも美味だ。見目も溺愛する愛息子をあらわしているかのように煌びやかで美しい。
「ご馳走様、とても美味しかった。…では、こちらの料理の説明をしていただこうかな?」
「っはい!!」
ぺロリと全てをたいらげて、今度は見た目には華のない料理を見る。
現料理長が手掛けた料理だということは聞いていた。
彼は、本当に優秀な料理人で、宴会料理においては国力の富を他者に魅せるかのような、斬新でいて煌びやかな料理を作る男である。
だが、普段の食事においては、王族の身体を優先に考えた、栄養バランスの取れた食事を準備してくれる。
「ふむ……。」
今回の料理を見れば、普段の食事の延長線上の料理のように見える。
―――これはもしや、逃げられるかな……?―――
内心で、王は呟く。
料理長は頑固な男だった。
常に眉間に皺を寄せた、寡黙な男ではあるが、その内側では情熱を燃やしている。
今回の一件を聞かされた時、王は既に決断をしていたのだ。
この料理人と王太子の女官を並べた時。
選ぶべき人物は、最初から決まっている。
それなのに、その決断を下そうとした王に提案されたのが、今回の料理対決だった。
エリカという女官が連れてきた料理人は、料理長の代わりを務めさせようとするほどの人物なのだ。腕はよかった。
料理の『腕』という点では、現在の料理長たる大将と引けを取らないだろう。確かに料理は全て美味しかった。
その次に出された、料理たち。つまりは、料理長が手掛けた料理。
それは素朴すぎてまるで家庭料理のような代物だった。
―――権力者の傍が、嫌になったか……―――
料理長の性格上、いつか王城を去る日が来るとは思っていた。このような場所は、あの潔癖な男には似合わない。
それでも、宴で並べられる料理を見るたびに。
普段の、身体を労わってくれるような味を舌に感じるたびに。
どうしても、傍に置きたいと、思ってしまったのだが……。
料理対決に臨んでくれるほど、王家に忠誠を誓ってくれているのかと思ったのだが、それもないようだ。
王太子クオンをイメージした料理が、これほどまでに地味で粗末なものである以上、王家に対する嫌味にしか見えない。
王の前で頭を垂れる少女も、きっと親に命じられてこの城にあがったような経歴の持ち主なのだろう。とても控えめで大人しそうな少女は、エリカと名乗った派手な少女とは到底渡りあえる娘には見えなかった。
要はこの機会に、王家に愛想をつかした面々で、城を去るつもりなのだ。