「お待たせしました~~。…?どうしました?先生。」
「クッ、クッ…」と堪え切れない笑いを零していたら、クーラーボックスを持ったキョーコが再び近付いてきた。
「あぁ。いや、大したことはないんだ。」
「?そうですか?でも……。」
「ん?なんだ?」
「先生、嬉しそうですね。」
私を見つめ、ふわりと微笑む栗色の髪の少女。…その背後に、幼い日に出会った、黒髪のツインテールの少女が見えた気がした。
「そうだな。多分、『光』を見つけたからだ。」
「へ?……光……ですか??」
「あぁ、でも。花でもあるか。」
あのうだるような暑さの夏の日。
偶然出会った少女は、想像していたような大輪の花を咲かせているわけではなかったけれど。
「随分と、面白くて可愛い花になったものだなぁ。」
「??えっと……。何のお話ですか……?」
輝くような笑顔を浮かべていた少女は、人生の荒波に揉まれて……そして、物怖じしない、ど根性を持つ女の子になっていた。
しかも、その思考回路は、予想することは困難で、周囲を巻き込んで大騒ぎをさせ……そして、全ての人を幸せへと導く。
「うん。クオンの『光』だけにしておくにはもったいない。」
「あ、あの、先生。もしかして、暑さでおかしくなられました……?」
クックッ、と笑いだした私に、キョーコはオロオロと動揺している。そんな少女の背後から、艶やかな黒髪の美丈夫が呆れ切った表情でパピロを突き付けてくる。
「どうぞ。あなたもお好きなんでしょう?」
「あぁ、ありがとう。」
礼を言って受け取った私を見つめる、一人の少女と、一人の青年の瞳。
「最上さん。ミスターは大丈夫だから。それより俺とパピロ、半分こしない?」
「へぇ!?は、半分こ、ですか??」
「うん。だってこれ二つとも食べたらお腹を壊しそうで……。」
「……敦賀さん……。相変わらず、胃は繊細ですね……。」
「あはは、そうだね。」などと、呆れた声で言ったキョーコの言葉に適当な相槌を打ちながら、彼はパピロを二つに割り、その一つをキョーコに渡す。
「はい、どうぞ?」
「……ありがとうございます。」
彼から受け取ったパピロを、幸せそうに受け取る、キョーコ。
その、彼女の笑顔は……
―――私、このアイス、大好きなの!!―――
そう言って、クオンと共にアイスを食べていた、幼い少女の笑顔と全く同じだ。
そう。この目の前にいる少女こそが……。
「そうか。やはり、運命だったんだな……。」
幼いクオンが出会った…
そして、穏やかな紳士の笑顔を浮かべる、敦賀君と共にいる…
―――真夏の、『光』―――
(真夏の光 FIN)