「……あら?」
「ん?え、な、な、に……かな?」
「…うふふっ。ううん。確かに大丈夫そうだな、と思って。」
「……え?ど、どうして?」
「うふふっ、だって、コーン、なんだか嬉しそうなんだもの。」
動揺して挙動不審な息子を見つめ、笑顔を浮かべた少女。
「もしかして、私が寝ている間に、大好きなものを見つけたの?」
「……え?」
「だって、今とっても幸せそうな顔をしているわよ?」
息子を見つめながらそれこそ幸せそうな笑顔を浮かべる少女に対し、クオンは。
「……うん。」
焦りの表情の中に、確かに少女の言う通りの、彼生来の活き活きとした瞳を見せて。
「みつけたよ、だいすきなものを。」
きっと今、この世で一番大好きなものを瞳に映して、きっぱりと言い切った。
「そう、よかったね。」
「うん。」
クオンの宝物は、自分がその『宝』という自覚はないけれど。
「でも、それってなぁに?」
「えっ、あ、…うん。それは、またこんど、おしえるよ。」
「…そう?あ、そうか!!今は見えないものなのね!!」
「そうだね、いまのキョーコちゃんにはみえないもの、かな?」
「そう!!妖精国にあるものなら仕方がないわね!!でも、そのうち、見えるようになるのかな!?」
「うん。みえるようになるよ、きっと。」
「そっか、楽しみね!!」と言った少女を見つめるクオンの瞳は、とても美しく…そして、少し物悲しげであった。
「きっと、もうすぐ、キレイにさくはずだから。」
「え?咲くの?あ、お花!?」
「クスッ、そうだね。いまはとてもかわいくて。もうすぐ、とてもキレイにさくはなだよ。」
きっと、10年もすれば。
今、クオンの前で微笑んでいる少女は、綺麗な大人の女性へと徐々に変化していくのだろう。
その時、クオンは傍にいることはできない。
大輪の花を咲かせる手前で、手折る男は、きっとクオンではない。
それを、あの幼さで何となくではあるが、察しているのだろう。
「…………。」
これだけは、どうしてやることもできない。
すでに少女の心は別の王子様に奪われているようであるし、クオンができることは今、何一つない。
だが、唇を奪いたくなるほどの衝動へと掻き立てた少女の魅力は確かにクオンが感じるところにあり……。
彼が見つけた『大好きなもの』は、間違いなく美しく輝くことだろう。
「じゃあね、コーン!!また明日!!」
「うん、またね、キョーコちゃん。」
元気いっぱいに駆けていく少女。
その背を見送るクオンの姿は、どこか物悲しい。
「……だいすきだよ……。」
ぽつりと、クオンの口から零れ出たその言葉は、やはり少女に届くことはなく…。夕日が沈みかけるこの瞬間に、その場にいた私の耳に微かに聞えただけだった。