「………ん?」
初恋相手との結婚にいたるまでのクオンのこれからの人生に想いを馳せていた私は、ふと気付いたことがあり、座りこんでいた体勢からガサゴソと動く。
先ほどまで甘酸っぱい愛の告白をしていたクオンの声が全く聞こえないのだ。
……もしや、二人して眠ってしまったのだろうか?……
それはそれでとても愛らしい姿が見られそうだが、今は真夏だ。そのまま熱中症にでもなられたらたまらない。
心配になった私は、急いで二人の座る石へと視線を戻した。
「っ!!!???」
そこで目にしたのはっ!!
私の可愛い天使が、膝枕したままの少女に覆いかぶさるように顔を近づけているところだったのだ。
―――おいおいおいおい、クオン!!それはいかん!!その年にして寝込みを襲うだなんてあっちゃならん!!―――
焦った私は、その場に立ちあがり、現場へ急行しようとしたのだが。
砂利に足を取られ、派手にその場にこけてしまった。
ドサッ!!ガサガサガサガサガサッ!!
ピチチチチチチチチッ!!
「っ!!??」
日本人男性(正確な日本人ではないが)としては規格外の体格の私がこけると同時に、周囲の草木がこすれあい、静かであった周囲は、一瞬で賑やかな音と、それに驚いた鳥達の警戒したような鳴き声と羽ばたきの音で満たされる。
「う~~~~~……?」
さすがの騒ぎに目を覚ましたのだろう少女は、警戒心皆無の可愛らしい唸り声をあげながら覚醒に向けて目をまたたかせる。
「……うふふふふ~~~…おはよ、コ―ン………。」
「………。あ、えっと……。お、おはよう、キョーコちゃん………。」
そして少女は、至近距離にあるクオンの顔を気にすることもなく、満面の笑顔を向けて、目覚めのあいさつをしたのである。
「……ふぅ~~~~~~……。」
ハリウッド・スターとしてはありえない、ドジをした結果、派手な音をたてて転んだ私は。
思わず溜息をつきながらも、クオンの膝から頭を持ち上げる少女を見た。
……どうだったんだろう。私の見ていた角度からはよく分からなかったが…。キス、されたんだろうか?それとも、乙女の唇は死守できたんだろうか?……
正直、覚えていない口付けを、彼女のファーストキスとしてカウントする必要はないと思う。もし、クオンの口付けが見事(?)成功していたとしても、その事実を知っているのは、クオン本人と…まぁ、覗いていた私だけだし。そういう意味では、奪われていようが死守できていようが、乙女の唇はまだ清いまま……と、いうことにしてほしい!!
「?あれ?コーン、大丈夫?」
「えっ?な、なにが……?」
「何だか、お顔が真っ赤だけれど……。」
身体を起こし、クオンと向き合った少女は、コテン、と首を傾げる。
心配そうなその顔を見つめていたクオンの顔は、これ以上ないほど赤くなった。
「っ!!??コーン、もしかして、お熱があるんじゃないの!!??」
「いっ、いや!!だいじょうぶ!!なんでもないから!!」
「本当にっ!?あ、もしかして、熱中症!?た、大変っ!!私、すぐにハンカチを濡らしてくるから…!!」
「だいじょうぶだって!!ほんとうにだいじょうぶだから、キョーコちゃん!!」
まさか眠る少女の唇を奪おうとしていたなどと、口が裂けても言えはしないだろう。
……それが、今のクオンの中では『友情』としての衝動だったとしても、それでも言えるものではない……
「まぁな。頬へのキスなら許容範囲だが……。」
さっき、クオンが狙っていたのは間違いなく唇だった。
そもそも、頬へのキスは日本人の少女にとってセーフかアウトかは微妙なラインだ。
未遂であろうが成就されていようが、どちらにしても言わないほうがいい。