「キョーコちゃん?」
どれほどの時間が経ったのだろう?
ハリウッドから日本まで、クオンを連れてきたことが正解だったことに、心の底から安堵し、神への感謝と愛しき妻への心の中での報告を済ませた後だったから…。ざっと、一時間といったところだろうか?(←長すぎる。)
「キョーコちゃん?こんなところでねたらダメだよ?」
「ん~~~~……。………ウフフフフッ、妖精さん…………。」
夏の蒸し暑い中とはいえ、河原の上流付近というものは、案外と過ごしやすい。
街の喧騒からは離れているし、何より川の流れる音は心地よい。
ましてや少女の隣には、究極のマイナスイオンを放っているような、美しい私の息子がいるのだ。
癒し効果抜群のものに囲まれて、少女はクオンの肩を借りながら眠りにおちかけているようだ。
「ちょっと、キョーコちゃん!!」
「フフフフッ。」
ふわふわと気持ち良さそうな声を出しながら、少女は優しく肩をゆするクオンの手を逃れ、彼の膝に頭を乗せた。
おぉっ!!膝枕というやつだな!!
「……も~~~…さては、きのうまた、よるおそくまでべんきょうしていたね?」
「うん。次、こそは……ぜったい、100点とるんだもん。」
「りょかんのおてつだいもしていたの?」
「うん……。おかみさんが、よろこんでくれるから……。」
「がんばりすぎちゃ、ダメだよ?」
「……うん……。」
「わかった。じゃあ、ちょっとのあいだだけね?いくらなつでも、かぜをひいちゃうかもしれないから。」
「……ウフフッ、ありがとう~~~~。コ―ンは、とっても優しいね……。」
少女はほとんど瞼が閉じた状態から、ふにゃりと可愛らしく微笑んだ。そんな少女を見るクオンは、顔を真っ赤にしている。
「ねぇ~~~…コ~~~ン?」
「…ん?何?」
しばらく少女を見つめていた後、落ちつくつもりか「コホンッ」とわざとらしいほど小さな咳払いをし、クオンは視線を少女から私が隠れている茂みの方へと向けている。
「コーンは、ずっと私のお友達よね……?」
どこか夢見心地の声で、少女はクオンに問いかけた。
「うん。ずっと、ずっと。友達だよ。」
それに対して、クオンはすぐさまそう返す。
……いや、私にはどうも…純粋な『友達』には見えないんだが。
どう考えてもクオンが少女に抱いている感情は『友情』じゃないだろう。
友達というものの定義を明確に示せるかと言えば、私だって微妙なところだが、それでもあどけない女の子に向けるクオンの視線は絶対違うと言い切れる。
だが……
「友達、か……。」
あの子にそう呼べる存在は、いたのだろうか?
誰にだってそつなく接し、いつだって笑顔で優しい対応を心掛ける子だった。
だからこそ、一部の人間に嫌われていたとしても、全員がクオンの敵になることはなかった。
だが、同時に、あの子の本当の味方になってくれるような存在が、いたのかどうかが分からない。
クオンは誰かが困っていたら手を差し伸べる男だ。
だが、あの子自身が困ってしまった時。
誰かに、ちゃんと頼ることができていたのだろうか?
解決ができないまでも、その胸の内を話したことがあったのだろうか?
「…………。なかったんだろうな……。」
そうでなければ、自宅の庭であんなにも所在なげに座っているわけがない。
誰にも打ち明けられない想いは、あの子の矜持が原因か、人間付き合いが得意ではないゆえか、それともその両方か。
いずれにしても、彼が自身の口で『友達』と言い切ることができる人間は、今まで存在してこなかったのだろう。
だから、今。自身に甘えてみせる少女の存在を。
クオンの想いを聞いてくれ、一緒に楽しい時間を過ごしてくれる存在を、『友達』なんだと信じている。