……浮上する……
眩い光に包まれた場所へと、身体が浮き上がるのが分かる。
―――どこに行くのか、分からない―――
そのことが、少しだけ怖い。
……だけど……
―――…おいで―――
厳しくも優しいあの人が、呼んでくれている。
反発しあった日々もあったけれど。
想いを無理やり押し込めていた日々もあったけれど。
溢れた気持ちを封じこめようと必死になった日々もあったけれど。
結局は、彼の呼ぶ声と、彼の差し出す手を、無視することなどできない。
……私も、あなたの隣に、ちゃんと並びたいから……
*******
「ん……。」
ふわふわとした浮遊感とともに、閉じていた瞼を開く。
「…………。」
ぼんやりと見上げる天井には見覚えがあった。数日ではあったが、世話になった場所だ。
しかし、そこで眠っていた理由が、キョーコには見当がつかなかった。
「………っ!!??」
そして、身体の左方面にある『重み』の理由も、どうしてそのような状況にあるのかも分からなかった。
「…………ぅん?」
左方向を向いて、衝撃を受けたキョーコがビクリと身体をびくつかせると、その数秒後に左方面の『重み』の正体がモソリと動き始める。
「………おはよう。」
「お、おはようございます!!」
キョーコが眠るベッドの左脇あたりに、座ったまま寝台に上体を預け、眠っていたらしい先輩俳優は、未だ眠気がとれていないらしい。
一応は身体を起こし、キョーコを見つめたものの、その瞳はまだ完全に開ききっていない。
彼は、何度かぱちり、ぱちりと瞬きを繰り返し、その後、少し開いた瞳にキョーコを映すと、ほにゃりと幸せそうに微笑んでみせた。
「きぇ~~~~~~~~っ!!??」
「!!??」
強烈な神々&無邪気さマックススマイルに、キョーコを守る怨キョ達の浄化が半端ない。
本体であるキョーコへのダメージも多大なものとなり、キョーコは勇者に倒される魔王のごとき悲鳴をあげてしまった。
「……。……なに、その失礼な叫びは……。」
「!!??な、何でもございませんです!!おはようございます、敦賀様!!」
キョーコの大絶叫に驚くとともに、完全なる目覚めを果たした蓮は、真っ青になりながら、ベッドの上で平謝りをする少女に深い溜息を吐く。
「うううっ…ダメ息……。」
「?何言っているの?それより、どこか調子が悪いところはない?」
「はっ、はい…!!おかげさまで元気いっぱいでございます!!」
「そう、安心した。」
ベッドの上で言葉通り、元気いっぱいの笑顔を浮かべるキョーコを見て、蓮も心から安堵する。
原因不明のまま倒れたキョーコは、前回同様、いつ目覚めるのかも分からない状態だった。
それが、蓮より先に目を覚まし。……蓮にとってとんでもなく迷惑な目覚まし時計にもなってくれたわけなのだから……。
「……う~~~ん、道のりは遠く、険しそうだなぁ……。」
「?何のお話ですか?」
「うん、気にしないで。一人ごとだから。」
夜を共に過ごし、朝を迎えた二人としては色気がなさすぎる。
一応は『抱かれたい男№1』などという大それた称号を持っている身としては、もう少しでいいから異性としての反応が欲しかった。
………まさか、恐怖映画のヒロインがごとく、叫ばれてしまうとは……