「ごちそうさまでした~!!」
「ごちそうさまでした。」
二人揃って手を合わせ、食事後のあいさつをすませると、少女は座っていた丸太から立ち上がった。
「コーン、今日は何をして遊ぶ!?」
そして、未だに座ったままの私の息子の方へと振り返りながら声をかける。
彼女の軽やかな動きとともにワンピースのすそが舞うように膨れ上がった。
「なんでもいいよ。キョーコちゃんは?」
「え?でも、毎日私が言った遊びで遊んでいるでしょ?コーンは何かやりたいことはないの?」
「う~~~ん……そうだね……。」
「う~~~ん……。」と唸るクオン。
そう、私の息子には、およそ人間が持つ『欲』が欠如している。
むろん、演じることや、仕事に対しては貪欲というか…とにかく真摯に向きあおうとしているのだが、例えば『食べる』ということやヘタをすれば『眠る』ことにさえ、あまり欲求が生まれないようだ。
クオンを好きになる女の子が多いというのに、それらに対する態度から察するに……女性関係についても淡泊と言える。まだ10歳になったところだから何ともいえないし、先ほどの妖しい笑顔も気になると言えば気になるところだが…。
まぁしかし、『欲』とはいえないレベルのものしか持ち合わせていない。
そんな、もはや無欲の権化のような我が息子が、自分から遊びたいことを探すというのは難しいだろう。
スカイダイビング、スキューバ―ダイビング、ウィンタースポーツ全般に、その他射撃訓練や私有地を使った車の運転などなど。
いずれの遊びにしても、あの子と遊ぶ時には、私が無理やり付き合わせている状態が多いのだから。
おかげであの子は何でもできるが、あの子から「やりたい」と言いだした遊びは何一つない状態になってしまった。
「とくにない…かな?」
そんな息子の出す答えは、私の思った通りの答え。
「キョーコちゃんがやりたいことをいっしょにやろうよ。…といっても、こんなところじゃ、やれることもかぎられているけれど……。」
少女に続いて立ち上がったクオンは、にこりと少女に笑いかけながら促す。
「コーンは、妖精の国では何をして遊んでいたの?」
「ん?…そうだね。そらをとんだり、ウミのなかをもぐったり、ユキのうえをすべったり……かな?」
「それは、楽しかった?」
「う……ん…。…まぁ、うまくなりたかったから、がんばってやっていたよ?ちょっとずつできるようになるのはたのしかった…かな?」
何でもできてしまうスーパー天使・クオン。
だが、誰でもそうだが最初から全てが上手にこなせるものばかりではない。
ゆえに努力家さんの彼は、極めるまでそれに集中し、恐ろしい勢いで吸収していくのだ。
「そっか、コーンはとっても努力家さんなのね?」
「……キョ―コちゃんにはまけるよ……。」
「?そう?私は何でも楽しいからやっているのよ?がんばったら女将さんや大将が褒めてくれるし。自慢してくれることはとっても嬉しい事だわ。私のこと、ちゃんと見てくれているってことだもの。」
無邪気な笑顔で話をする少女。だが、その発言は幼い女の子が口にするような言葉ではない。
あの年頃の子どもは、親から褒められ、関心を寄せられるのは当然のことだと思うのだが……。
実際、クオンがあの娘くらいの年頃の時、私はクオンが恥ずかしがって嫌がるほどほめちぎったし、若干引かれるほどに構い倒していたものだ。
「じゃあ、今日は……。コーンの好きなものを探しましょう!!」
「え?」
「コーンが大好きって思えるものを探すの!!だって、私だけが楽しいだなんて、不公平じゃない?」
「行こう!!」とクオンに手を差し出す少女。
「……うん。」
はじけるような笑顔の女の子の手を取る、私の息子。
その表情は、心から幸せそうな笑顔だった。