「…………。」
じわり、と視界が滲む。
瞳から零れ落ちたその雫が、一体何の涙であるのか……。
―――この娘と、ひとつになることは、できない。―――
一緒にいてくれるとさえ言ってくれた少女だけれど。
もうニ度と現れない、蓮にとって唯一無二の愛しい人だけれど。
彼女を蓮の一部にしてしまうことはできない。
それは蓮にとってとても不安で、寂しいことだ。
けれど……
―――一緒に、歩いてくれる人がいる。思い出を、刻んでくれる人がいる。―――
身体をひとつにできないからこそ、隣を歩いてくれる人がいる。
信じるための勇気をくれる人がいる。
これから歩む道を、一緒に笑い、悩み苦しみながら、過ごしてくれる人がいる。
しかも、それはキョーコだけではなく、もっとたくさんの人達も一緒なのだ。
「……君一人じゃ、ない……。」
蓮には、キョーコの他にも大切な人たちがいる。そう思える人たちが、いることが今なら分かる。
そして、キョーコにも、大切な人たちがいる。
これからも、そんな人たちは増えていくのだろう。
蓮の人生も、キョーコの人生も。
まだきっと、先は長く、様々な方向に道は広がっている。
全ては未知の世界なのだ。
それでも。
「……愛しているよ。」
完全にひとつになることはできないとしても。
大切な人がこの娘だけではないとしても。
キョーコを見つめるだけで溢れる想いは、苦しいほどの悦びと幸福に満ちている。
この感情は、唯一彼女だけが蓮に与えてくれるもの。
「君を、愛している。」
―――君のことが……好きなんだ……。―――
オムライスに描かれた魔法によって紡いだ告白の言葉。
ずっと秘めてきた……一生、秘めると決めていた想いを吐露するほどに高ぶった想い。
『あの日』以上に溢れる感情は、この世にはないと思っていた。
けれど。
「……愛している……。」
―――大切なのが、この娘だけではないと気付いた今の方が。彼女を一層、『愛しい』と、思う…―――
渦巻く感情は、闇に潜む『孤独』を内に秘めながら、天にも昇るほどの喜びと愛おしさに溢れている。
「早く、目を覚まして……?」
希望に溢れた大きな瞳が開いたその時。
伝えたい言葉がある。
―――……一度目の告白よりも、ニ度目の愛の言葉よりも。大切だと伝え続けたこれまでの言葉よりも。それ以上に溢れる想いを、君に伝えたい……―――
重苦しい愛情を向けられることは、少女にとって迷惑なものなのかもしれない。けれど、そんなことを恐れるよりも、伝えたい想いがある。
蓮は、身の内にこもる激しい熱を逃すように息を吐きだすと、そっと瞳を閉じた。