「お、今日はキョーコちゃんのお手製かぁ。」
「やったな、リーダー!!」
「ば、バカ!!声がでかいよ、2人とも!!」
王太子の宮殿を守る警護兵3人組の背後で、年長者たる2人の男は苦笑いを浮かべていた。
「若いねぇ、3人とも。」
「俺らも言うほど歳を取ってないと思うけれどな。ヒカルなんて、あれで殿下と同年齢だぞ。」
「え、そうなのか?…若く見えるねぇ、3人とも。」
「お前、若いくせにオッサンくさいよな、本当に。」
「ウシオはその下品な髭さえ剃ったら、かなりの童顔になると俺はふんでいるぞ。」
「…………。そういうことは言わないのが漢ってもんだろが。」
「あ、自覚はしていたのか。」
ザワザワとした食堂の中には、王太子たるクオンの親衛隊を始め、貴族出身の宮仕えをしている者達がひしめき合っている。
その中で、給仕をする女性達は実によく働いていた。
「おはようございます、セイジ様。ウシオ様。」
「おぉ、おはよう、キョーコちゃん。」
「おはよう。…君は朝っぱらからよく働くねぇ……。」
そんな女性達の中には、もちろん、キョーコの姿もある。
「今日は君が作った朝食なんだってね?」
「はい!!よくご存知ですね!!」
「あぁ、『キョーコ情報』を的確にキャッチする人間を知っているからね。」
「?私の情報?」
「そうそう。…ま、そのうち君にちゃんと伝えると思うから。それまでは放っておいてあげて。害はない奴らだからさ。」
キョーコの登場に、セイジとウシオの斜め前の列で食事をしていた3人組がちらりと視線を向けてきた。
セイジと目が合うと、慌てて視線を逸らした3人組の様子に、呆れたような笑いを浮かべた後、セイジはキョーコが作ったというスープを口にした。
「……。キョーコちゃんは西方の生まれ?」
「?はい、そうですよ。なぜですか?」
「味付けが『あちら側』の味だからね。」
「あ、もしかして……お口に合いませんか?」
「いや、美味しいよ。久しぶりに西方のおいしいスープを口にできて嬉しい。」
にこりと笑うセイジの表情に、嘘はないようだった。そのことにほっとしたような笑顔を浮かべ、キョーコは一礼するとその場を去って行く。
「西方か……。」
「おや、さすが副隊長殿。気になった?」
「そりゃあな。そもそも、あの殿下に『深窓の姫君』というのは何だか似合わん。」
穏やかで紳士的な笑顔を浮かべた彼らの主君。
だが、いつもその身の内に、激しい焔を燃やしている事を、セイジもウシオも知っている。
「しかし……。この推測が事実だとしたら。何だか妙な事になってしまっているね?」
「そうだな。……もしかして、我らが殿下は、阿呆なのか?」
「あははっ、そうかもしれない。あ、でも、アホというよりかは…マヌケ、かな?」
ヒズリ国の、王太子殿下に仕える親衛隊長と、副隊長。
その二人は、彼らの主たる人物に、辛辣な言葉を吐いた。
「キョーコちゃんが何者なのか、がぜん気になってきたねぇ。」
「……単独行動は、規則違反だぞ。」
西方の味付けのおいしいスープを口にしながら、セイジはニヤリと笑ってみせる。
「おや、ウシオ殿とは思えぬ発言だな。単独行動と規則違反は君のオハコだろう?」
「そうだ。だから、お前は単独行動をしちゃならん。…複数行動なら、規則の違反も見逃してやる。」
「あははっ、そうくるわけか。分かったよ、一緒に調べよう。」
ライ麦のパンをちぎりながら食べるウシオが平然と言ってみせる。
「王太子殿下の御世となることが確定した今、俺達は割と暇だからなぁ。」
「退屈しのぎには丁度いいか。」
王太子付きの部隊の責任者とも思えない発言をした二人は、今後の『複数行動』における方針について話し合った後、それぞれの行動に移り始めたのだった。