……『それ』は決して、他人に見せたくないものなのかもしれない……
心に巣食う、醜い感情。
目を背けたい、己の過去。
犯した罪を、償うことができない穢れた手。
『己』を守るためにも、他人に見せたくはないもの。
……本当は、見ないふりをしてあげるのが、優しさなのかもしれない……
それでも。
闇に沈む蓮はキョーコに触れてくれた。
震える冷たい身体全てで、キョーコを必要としてくれた。
キョーコとひとつになりたいと、その内なる想いを行動で示してくれた。
―――キョーコはキョーコであって、蓮にはなれない。―――
どれほどお互いを必要としても。
心も身体も、過去も今も未来も、全てを一緒にすることはできない。
でも、だからこそ。
「ひとりになんて、絶対にしません。」
冷たい身体を、抱きしめることができる。
蓮自身が嫌う『彼』を、愛することができる。
全てを諦めて沈みこもうとするその手を、掴むことができる。
―――ひとつじゃないからこそ、独りにはしない。―――
彼が望む感情かは分からない。
孤独を望む彼を、独りにしないことは残酷なことなのかもしれない。
それでも……。
―――私の『愛』は重苦しくて……。粘着質なんだもの。―――
愛した相手の、全てを知る事を望んでしまう。
振り払われようとも、その手をつなぎ止めようと、必死に追い縋ろうとする。
愛した人を、一番理解できる人間でありたいと、思ってしまう。
昔から、そうだったのだ。
「敦賀さん……。」
蓮の耳元で、囁く『彼』の名前。
彼を呼ぶ声が、キョーコの声でいいのか分からない。
彼の手を掴むのが、キョーコでいいのか分からない。
彼を抱きしめる腕が、キョーコの腕でいいのか分からない。
本当は、もっと相応しい声も手も、腕もあるのかもしれない。
けれど。
―――…君のことが……好きなんだ……。―――
掠れた声で、伝えてくれた告白。
―――俺も、君を愛してくれた人と、話がしたい。―――
―――君の話を、たくさんしたいよ。―――
穏やかな声で伝えてくれた、キョーコへの溢れるほどの優しさが詰まった想い。
―――貴方もまた、私の『孤独』に手を伸ばしてくれたから……―――
勝手にキョーコが抱える『孤独』に触れてきたくせに。
自分は触れさせないだなんて、不公平だと思うのだ。