「っ!!」
重力に従い、堕ちていく。
その先で。
強烈な衝撃が、キョーコの身体に与えられるはずだった。
「蓮っ!!」
「最上様!!」
ぐっと瞼を閉じ、歯を食いしばって迎えた激突。
だが、その痛みは思った以上に軽いものだった。
ふわりと落ちつく香りがキョーコの嗅覚を支配し。
少しの衝突の後にキョーコに与えられたのは、大きな何かに包まれる感覚だけ。
「………?」
「大丈夫かっ!?蓮!!キョーコちゃん!!」
「私はあちらを追います。社様、こちらをお任せします。」
「はいっ!!お願いします!!」
そろりと瞳を開けた先は、真っ暗な世界だった。
しかし、聴覚に入ってくるのは、切羽詰まった声とはいえ、社とセバスのものだ。
「蓮っ!!キョーコちゃん!!」
「わ、私は大丈夫です、社さん。」
「そうっ!!……よ、よかった…………。」
「はぁ~~~~~……。」と、深く長い安堵の溜息を吐く青年の声を聞きながら、キョーコは身体を覆い尽くす真っ黒な存在の正体に当りをつけた。
抜け出したくなくなる香り。
キョーコの全てを覆いつくしてしまう大きな身体。
それらを持つ男に、今、キョーコは抱きしめられているのだ。
それは、きっとキョーコにとって、この世で最も安心する場所。
だが、その主は。
「おい、蓮?キョーコちゃん、大丈夫だぞ?」
「…………敦賀さん…………。」
全身を包みこまれているからこそ、キョーコは気付いた。
「敦賀さん?……私は大丈夫ですよ?」
「おい、蓮?」
真っ暗な世界の中、全身を包む大きく力強い存在。
普段は太陽のような輝かしいオーラを持つ青年が、今、怯える小さな少年のように全身を小刻みに震わせていた。
不安に揺れるその想いが、全身の小さな震えと共にキョーコにも伝わってくる。
「敦賀さん。本当に大丈夫ですから。」
キョーコの右耳が触れる場所から、『ドクン』『ドクン』と強く響く命の鼓動が聞こえる。その耳を打つ存在に、キョーコは囁きかけた。
「あなたが、守ってくださったんですよ?」
他の誰でもない、敦賀蓮が。