帝の至宝~愛し君へ贈るもの(12-1)~ | ななちのブログ

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 ―――1年という年月は長いのか。それとも、短いのか―――



 香蘭が陽国へと向かって、1年。



「陛下、次の案件を……。」

「うん。」

「陛下、南東の領地の件なのですが……。」

「あぁ、それなら……。」



 香蘭と過ごすことが当たり前であった日々から、彼女が訪れなくなった日々に変わっても、志季の1日はほとんど変わらない。

 謁見に訪れる者に会い、執務室で決済事項に追われる。

 時には視察として各地に出向き、国の様子を伺ってきた。



 その志季の後ろには、1年前と変わらず、円夏と雨帖が付き従っている。



「……雨帖。」

「はい?」

「陽国に、帰らなくていいの?」

 

1年前。

帝の至宝を連れて行ったこの男は、1月ほどすると、晶国へと戻ってきた。

 そして彼は、これまでと変わらず晶国に仕え、宗雲帝の支えとなるべく、任についてくれている。



「いえ。私は晶国で、陛下をお支えいたします。」

「もう、この国が雨帖を縛るものなんて何もないだろう?」

「いえ。香蘭と、約束をしておりますから。」

「…………そう。」



 『香蘭』。



 雨帖との会話の中で、その名前が出てくることはこの1年、一度としてなかった。

 それは雨帖も意識していただろうし…志季も、意識をしていた。



「…………。」



 1年。



 長いようで短いその時を生きれば、香蘭のことは忘れられると思っていた。



 だが、時が経っても、目を瞑れば鮮やかに香蘭の笑顔が思い出される。

 18歳という年齢にそぐわない、愛らしい容姿をしたその少女の姿が、未だ鮮明に蘇るのだ。



「陛下。」

「何?」



 その脳裏に浮かんだ少女を払いのけるように細かく首を振った志季に、雨帖は穏やかな口調で言った。



「会っていただきたい者がいるのです。」










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