帝の至宝~愛し君へ贈るもの(11-1)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 昔から、何に対しても興味を持つことができなかった。

 

 何でも手に入る立場であった。

 でも、その一方で、何も手に入るものがないことも、分かっていたのかもしれない。



 だけど……



 手に入れたいと、初めて思った。



 薄汚れたこの手で触れていいものなのか分からない。決して自由ではない場所に、連れ込んでいい人ではないのかもしれない。



 たくさんの人達に愛される、たくさんの人を愛しているあの娘。



 たったひとつの、我が『宝』。







*******







「待てっ!!」



 雨帖の屋敷に辿り着く直前。彼の屋敷より出てきた一団を見つけ、志季は大声で呼び止めた。



「!何奴だっ!!」



 一団の前方を行く馬の前に立ちはだかった志季は、荒い息をそのままに怒鳴りつけてきた男を睨みつける。



「陛下っ!!」



 無言の圧力に、団の先頭にいた男が息を飲んだ時。

 その男の後方から、よく知る男の声が聞こえた。



 「陛下……?」「え、帝……?」「晶国のか?」「まさか。供もつけずに現れるか?」「しかも、走ってきたぞ。」「王族だよな、ありえねぇ……。」「いや、でもかなりの美形だし。」「王族が美形って、お前、それ偏見だぞ。」



「…………。」



 ザワザワ、とざわつく周囲を無視し、志季は一団の中に許可なく足を進めて行く。



 一国の帝として、愚かなことをしている。

 一度認めたくせに。

 一度諦めたくせに。

 一度手放した、くせに。



 今から何をしようと、遅い事も承知している。

 香蘭の想いが固まっている以上、これからの行為は愚皇の極みだ。



 暗君が3代続いた晶王朝。

 その血は確かに志季にも引き継がれ、志季はこれまでの3代を超える愚かな帝として、歴史に残ることになるのかもしれない。



 それでも。

 それでも、諦めきれない想いがある。



「陛下、いかがされましたか……?」

「…………。」



 志季は、馬上で戸惑いの表情を浮かべる雨帖を無視し、その彼の後ろに守られるように続く籠に近付く。

 

 ドクリ、ドクリと脈打つ心の臓。

 確かな命の鼓動は、志季の中に在る。

 そしてそれは、この籠の中に守られ、雨帖の…陽国のものになろうとしている少女が刻む音でもあるのだ。



「!陛下っ!!」



 志季は、雨帖の制止の声を無視して、籠の扉を開けた。












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