「あ、あの……。も、最上さん……。」
「え、えへへ……。そうですよね。私みたいな雑巾女が香水なんて、2000年は早いですよね。」
「いや、あの……。ち、違うんだ……。」
心にもない事を口にして数秒後。
俺はとんでもない後悔に襲われることとなる。
「あ、それでは私、これで失礼させていただきます。よくよく考えたら私ごときが、先輩の大事なお休みの時間を奪ってしまうなんて、そんな失礼なことはできませんものね。」
「ちょっと待って、最上さん……っ!!」
彼女は、俺の発言後。
大きな瞳を見開いて。
そして笑顔を浮かべて……。涙を、流し始めたのだ。
そして、部屋を出て行こうと立ち上がる。
そんな少女の左腕を、俺は焦って捕まえた。
「えへへ。すみません、これは目に何か大きなゴミが入りまして。ちょっと痛めただけですので。お気になさらず。」
「気にしないわけがないだろう!?」
突然、ゴミが入ってきてポロポロと泣き始めるだなんて、苦しい言い訳すぎる。
「気にしないでください。だって、敦賀さんは本当のことを言ってくれたんでしょう?」
俺に涙を見られたくないのか、最上さんは俯き、右腕で両目を塞ぎながら震える声で言った。
「……っ。」
自分の口から、零れ出た嘘。
でも、それを否定してしまうのは言い訳じみた言葉にしか聞えないだろう。
―――あぁ、なんて俺は愚かなんだ。―――
誤ることもできず、でも、掴んだ左腕を離してあげることもできない。
このまま、この部屋を去っていかれたら、もう彼女にかける言葉がなくなりそうで。
「ごめんなさい……。」
「……え?」
進退極り、途方にくれた俺の耳に響くのは、なぜか少女の謝罪の言葉。
「どうして、君が謝るの?」
「……わ、私には……不相応な、香りでした。こんな…敦賀さんを、汚してしまうようなことをしてっ!!」
「え?」
「わ、私のバカバカバカ~~~!!」
「うぅぅぅ~~~っ!!」と唸るような声を上げながら、泣く最上さん。
「え!?ちょっ、ちょっと、最上さんっ!!」
「申し訳ございません!!もう二度といたしませんので!!!お、お許しください!!!!」
俺に掴まれていない右手を振り上げて、自身の頭を殴りつけようとする最上さん。そんな彼女の言動に驚き、俺は慌てて左手で少女の右腕を捕まえた。
「と、とにかく落ちついて?ね?」
「うぅぅぅぅ~~~……。」
俺に両腕を掴まれたまま、最上さんはしばらくの間ポロポロと瞳から涙を零し続けていた。そんな彼女が痛ましい反面、可愛くも見えてしまうのだから、俺は相当腐っている。