帝の至宝~愛し君へ贈るもの(8-2)~ | ななちのブログ

ななちのブログ

このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 分かっていたはずだ。

 

分かっていながら、ここまで来た。



無意識だった、とか、そんなバカげた言い訳をするつもりはない。



ただ、確かめたかったのだ。



香蘭が、本当に『選んだ』のかどうかを。







******







 雨帖の屋敷は、塀が低い。

 それは、過去に見た陽の国の建物によく似ている。

 外観は晶の国の建物に似せ、景観を損なわないようにしているが、美しい庭園は屋敷の外からでも眺めることができた。塀を高くし、屋敷内を一切見せない晶の都の中で、開放的な屋敷だ。それは、彼らの民族性の誇りのようなものが影響しているのであろうか……。



 だが、初めて屋敷に訪れた時、志季は確かに外から眺める庭園に、心から癒されたのだ。



「…………。」



 その、癒された庭園の中に。

香蘭が、いる。



「久しぶり。」

「……はい。」



 陽の国の民族衣装に身を包み、ぎこちなく微笑む『友人』の姿に、志季も無理やり口角を上げた。



「あ、えっと……。雨帖……に、会いにきたの、ですか?」



 香蘭は、しばらく視線を彷徨わせた後、おずおずとそんなことを尋ねてきた。



「…………。」

「あ、あの……。……陛下?」

「っ君は……。」



 ―――志季……好きだよ……。―――



 志季が覚えているのは、『宗雲』となり、『帝』となった志季を『志季』と呼び、嬉しそうに微笑む香蘭だけ。



 それなのに、目の前にいる香蘭は……



「君は、もう私のことを、志季とは呼んでくれないの……?」



 雨帖を『雨帖』と呼び捨てにしたあげく、志季を『陛下』と呼んだ。



「…陛下に、無礼な発言をするわけにはいきませんから。」



 そして、乞うように尋ねた問いに拒絶を示し、今までになく丁寧な口調で話をしてくる。



「君は、もう、雨帖のものなの?」

「雨帖ではなく、陽の国のものです。私がそうなることを願い、瑠璃様…お母様と、雨帖がそれを叶えて下さいます。」



 俯き、答える香蘭。



 志季と香蘭の間には、咲き誇る美しい花々があるのみ。



 それなのに、志季には大きな溝と闇が、二人の間に広がっているように感じた。



「どうして……」

「え?」

「どうして、国のためにそこまでできる……?」



 ドクリ、ドクリと心臓が鳴る。その音とともに、志季の身体にいきわたるのは、これまで感じたことはない、どす黒く、汚い想い。



 その感情に任せ、志季は屋敷の塀を超えて、雨帖の屋敷の敷地内に踏みこんだ。








web拍手 by FC2