「あのっ!!敦賀さん!!」
「却下。」
「はへぃ!?」
「俺の事は、『蓮』、もしくは『クオン』って呼んで。」
「へぇ!?」
「それ以外は絶対返事をしないから。」
「っっ!!???」
プイッとそっぽを向かれてしまわれる…金髪碧眼の敦賀さん。
何!?何なの、この敦賀さん!!そんな可愛い反応、『敦賀蓮』としてアウトじゃないんですか!?
『ごめんなさいね、キョーコ。』
『へ!?』
『昔からクオンって、こういうところがあるのよ?小さい頃から大人の世界に合わせることを覚えちゃったけれど…。その分、甘えたい相手には、とことん甘えん坊なの。』
『あ、甘えん坊!!!???』
『えぇ。もう~~…そういうところは全然変わってないわね。』
『性格はそうそう変わらないよ。』
困ったように敦賀さんを見つめる女神に、敦賀さんはぶっきらぼうに答えた。
そして改めて私を見つめる。
「さぁ、キョーコちゃん。可愛い君の唇から、俺の名前を聞かせてほしいな?」
「あぁぁぁあの……。敦賀さ「蓮。または、クオン。」」
にっこりと。
神々スマイルに夜の帝王スマイルがかけ合わさったような、神々しくも淫靡な笑みを浮かべる敦賀さんは、私の唇に人差し指を押しつけると甘く優しく嗜めてきた。
『おいおい、クオン。可愛いからって、キョーコをあまり苛めるな。…全く、それじゃあ小学生の幼い恋みたいだぞ?』
『仕方がないよ。俺、本気で好きになった女の子はキョーコちゃんだけなんだから。こんな可愛い生き物、苛めたくなって当然だろう?』
『はははっ!!すまないな、キョーコ!!そういうことらしいから、クオンに苛められても全て愛だと思って受け止めてくれっ!!大丈夫、お前なら受け止められるはずだ!!』
『あぁ、心配しなくても俺以外が君を苛めようものなら、地獄の入口までそいつを案内してあげるからね?君は全力で俺が守るよ。』
「!!!!????」
私の唇を押さえつける指が、いつの間にやら人差し指から親指に変わっていて、艶やかな笑みが私に急接近してくる。
「れ、れれれれれ、れん!!く、くおん!!」
「うん。いい響きだね。君の愛らしい唇から零れ出るなら、どちらで呼んでもらっても嬉しいなぁ……。」
このままでは、敦賀さんの艶やかな唇が、私の唇を塞いでしまうんじゃないかと思うほどに近付いてこられたので、私は必死になってご要望になられた単語を口から吐き出した。
すると、満足そうに大先輩は肯いてみせる。
「キョーコちゃんは俺のこと、どう呼びたい?」
「!!つ、つるがさ……「却下。」」
甘く優しく訳の分からないことを問うてくる先輩に、正直にお答えしようとした瞬間に飛び出す拒絶の言葉。
……何かしらっ!?これ、もしかして、新手のイジメ!!??……
「はははっ、イジメなわけないだろう?これはね、俺の愛情。」
「!?」
「愛しているよ、キョーコちゃん……。」
「あ、あわわわわ、あわわわわわわわ……」
『はははっ、若いなぁ。素晴らしい愛情表現だぞ、クオン。』
『フフフッ、さすが私達の息子よねぇ。』
「む、むむむ……息子………!?」
連発される、信じられない言葉達。頭が沸騰して倒れそうな状況の中、私は唯一脳内に残った単語を発する。
「そう、息子。俺は、君がお似合いだと言ったそちらの女神のたった一人の息子なんだ。」
「そうだ。敦賀蓮改め、クオン=ヒズリ。それが、彼の本名だよ。」
「!!??」
そして、あっさりきっぱりと真実の爆弾は投下される。
亡くなったと思い込んでいた、先生の息子さん。
実は生きていらっしゃって。
実は日本にいらっしゃっていて。
実はお名前を変えて芸能活動をされていて。
実は私もお逢いしたことがあるお方で。
……実は、敬愛している先輩の『敦賀蓮』であったという……『事実』。
「……キャ~~~~~~~~ッ!!」
全ての事実が明るみにされて、脳内で整理された瞬間に。
私は全てを拒否するように、大絶叫をあげると意識を失った。