「別に変な話じゃねェだろう?君はうちのタレントだ。デビューはしちまっているし、いくつか話題になるドラマに出演だってしている。」
「……そう、ですね。」
マリアがゲストハウスに持ってきてくれたDVDで見た、自分自身の姿。
それを『自分』だと信じることが難しい姿がほとんどであったけれど…それらは間違いなく、『京子』が演じていた人物たちだった。
『京子』は紛れもなく、この業界にいた人物なのだ。
そして、それは間違いなく、キョーコ自身なのである。
「最上君。」
「はい。」
「俺は2ヶ月前、君に尋ねたことがあるんだ。」
「?はい……。」
「それをもう一度、君に問いたい。…その答えが、今回の仕事の出来を左右するだろうからな。」
「っ!!」
ドクン、と心臓が高鳴った。
記憶を失くす、2ヶ月前。キョーコがローリィに問われ、応えた言葉。今回の『仕事』に大きく関わるというその問いを前に、キョーコは背筋を伸ばし、身がまえた。
「最上君。」
「はい。」
「君は、『愛』と聞いて、最初に何を連想する?」
「……え……?」
―――君は、「愛」と聞いて最初に何を連想するかね?―――
それは今のキョーコにとってもちょうど2ヶ月前。
オーディションに落選したキョーコに、椹が尋ねた質問だった。
それに対して、キョーコは間髪いれずに答えてみせたのだ。
―――破滅と絶望の序曲です!!―――
「…………。」
『破滅』と、『絶望』。
ずっと愛し続け、信じていた男に裏切られた。切望しても、絶望するだけだと思い知った。
その経験は、嘘ではない。事実、キョーコの心は深く傷つき、粉々に砕け散ったのだから。
でも……
―――君が、好きなんだ。―――
必要ないと否定した言葉を、大事に紡いでくれた、あの人。
愛されたことなんてないと思っていたキョーコを、大切なんだと言ってくれる、優しい男性。
「…………。」
―――今度は何よ、モ~~~……―――
眉間に皺を寄せながら、親身になって相談に応じてくれる親友。
―――あんたは覚えていないけれど、私らはこの1年、一緒の家に住んでまるで家族のように生活してきたと思っているんだ―――
キョーコを厭わずに住む場所を、活動する場を与えてくれる大人達。
―――キョーコちゃんがウチらの愛情を受けるのは、当たり前のことなんや。―――
そして、過去からずっと、キョーコを見つめ、傍にいてくれた優しい人達。
彼らがキョーコに向けてくれる想いは、『破滅』と『絶望』の序曲なのだろうか?