「はじめまして。私は雨帖の母で瑠璃と申します。」
目を見開く若い男達の前で艶然と微笑み、女性……瑠璃は、礼をとった。
「ちょっと待ってくださいっ!!他国の、しかも女人がこのような場所へ……!!」
「申し訳ございません。私、蛮族の出身でございますし…。しかも、平民の賤しい出でございますから。礼儀と言うものをわきまえておりませんの。お許しくださいませね?」
「!!無礼にもほどがあり「円夏。いいよ。」」
円夏の怒りに荒れる声を制し、志季は瑠璃の前に立った。
「晶国の帝、宗雲と申します。…雨帖には、大変お世話になっています。」
「宗雲陛下…。素敵な帝だと聞いておりますわ。雨帖より、とてもお優しくご立派なお方だと、毎日伺っておりましたのよ。」
「そうですか。それは嬉しい限りです。」
志季が微笑んでみせると、美しい女性はより一層、笑みを深める。
「狭苦しい場所でお許しください。…どうぞ、こちらへ。」
「いいえ、陛下。すぐお暇させていただくつもりですから、この場で結構ですわ。」
促す志季の言葉をやんわりと遮り、瑠璃は自身の背後に立つ男…雨帖へ視線を向ける。
「先ほど、皇太后様にご拝謁賜りました。」
「皇太后様に?」
母親の視線を受けた雨帖は、志季の目を真っ直ぐに見つめると話を切り出した。
だが、切り出された内容は突飛すぎる内容で。
すぐに理解をすることはできなかった。
「我が国で、私の兄弟が…ある発明をいたしました。それは、周辺諸国の力関係を左右するほどのものです。」
「え……?」
「我が母国は、民族国家です。小国ゆえに、今まで周辺諸国に従属することで生き残ってまいりました。」
「…………。」
隣国には、王の妾に雨帖の妹がおり、そのまた隣の国では、雨帖の弟が、臣下として王族に従っている。
そして、この国に雨帖がいるように……。
そうして、民族国家『陽』は生き残ってきたのだ。
「我が国の王は、決して愚かではありません。何かを破壊することで得られるものと、失うものをよく理解しております。ゆえに、争いを良しとはしません。」
「…………。」
陽国の、王。
同盟を結ぶ際に、一度だけ会った壮年の王は、笑顔を浮かべて幼い『第一皇子』を丁寧に迎え入れ、礼を尽くしてくれた。幼い宗雲に敬意を表してくれたものだった。
「しかし、今回得られたモノを利用して、我が母国はこれまでの周辺諸国との関係を一変しようと考えております。」
「と、いうのは……?」
「例えば。周辺諸国の王族の姫君を、我が王族の人間と縁続きにさせるような。」
「…………。」
晶の国では、雨帖が国に仕えることでその忠誠を示した。
それを今度は、陽の国が求めるのだと言う。
「それを、皇太后様に確認をされた、と……?」
「えぇ、そうですわ。このような場合、男よりも女性の方が決断が早いと思いましたの。失礼を承知で申し上げますが。…聡明とはいえ、貴方はまだ若く、国の父としては幼すぎます。」
「なっ!?陛下に対して何と言う口のきき方をっ!!」
「申し訳ございません。…どうにも母は、王族に対して厳しい物言いをしてしまう性質でして……。」
「ここで斬首してくださっても結構よ?…できるものなら、ね?」
挑戦的な笑みを浮かべる瑠璃に対し、志季は黙ったまま笑みを浮かべた。
……なぜかは分からない。だが、彼女の言葉は、きちんと胸に止めなければならないと思った。