(sideキョーコ)
「あ、あの……。」
「ん?何?あぁ、もしかして足が痛い?ちょっとヒールが高いからね。」
私の手を引き、歩く美しい男性。某有名ホテルのエントランスがものすごく似合ってしまう、ゴージャスなオーラを身に纏った彼に連れられてきたホテル内にて。
彼の歩みを止めたくて、繋がれた手を引っ張ると。
彼は素直に立ち止り、ゆっくりと振り返ってくれる。
……眩い、稲穂のような髪に……美しい、海のような蒼の瞳。
思わず目を細めて見つめるその色は、別に珍しいものじゃない。
この国では確かにあまり見ない色だけど、私は老舗旅館で長く働いていた経歴を持つ女。
海外からの旅行者だって接客してきたもの。だからそこは全然問題じゃない。
問題、なのは……
「あなたは……」
「ごめんね、気づかなくて。」
「ひやぁ!!??」
問おうとした瞬間に、膝裏を掬われ、抱きあげられる。
グラリと身体が横になって、そのまま浮き上がる感覚に驚き、私は美しい金糸の髪を持つ彼の頭に抱きついた。
……この、病みつきになる、髪質。これには覚えがありますぎる。
一度触れるとニ度と手を離す気になれない可愛い感触は、そう遠くない過去、『彼』が寝ているすきに触れ続けたものだった。
いや、でも今はそれどころじゃなくてっ……!!
「あ、あぁぁぁぁあのっ!!お、おろしてください~~!!」
「え?どうして?」
なんで、なんでお姫様抱っこなんかされているのよ、私~~~~!!!!
「私、大丈夫ですから!!全然足は痛くないですから!!」
「え?そう?……そうだね。じゃあ、『ヒールじゃ歩きにくいから』っていう理由はどう?」
「!?い、いえ!!ナツの修行でヒールにも慣れましたから!!全然問題ございません!!」
「そうか……。じゃあ、『単にお姫様抱っこをしてほしかった』っていう理由はどう?」
「!?いやいや、私、絶対そんなこと、願ったりしませんっ!!そんな願望、私には一切ございません!!むしろ自分の足でですね、地面を踏みしめるのがですね!?私の理想と言いますか!!生き様といいますか!!」
「じゃあ、『俺がキョーコちゃんをお姫様抱っこをしたかった。』…ね?これで解決しただろう?」
「え!?何が解決したんですか!?何も解決してません!!降ろしてください~~~!!」
このとっては返す言葉のあやとりっ!!
意地悪すぎる言動の数々っ!!
これは、これは……!!容姿が違うけれど、間違いなくっ!!
『まぁ~~~~~~!!!!あなた~~~~~~~!!』
答えを導き出そうとした私の耳に、とんでもなく透き通る、女神のような美しい声が……大音量で、響いてきた。