帝の至宝~愛し君へ贈るもの(7-1)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 雨が降る。

 しとしと、しとしとと。

 まるで世界が泣いているかのように……。

 何かと別れる悲しみを、現しているかのように……。







*******







「陛下…陛下。」

「…え?あ、……うん。何?」



 円夏の呼び声に、我に返る。

 目の前に置かれている書簡は、先ほど確認をしようと思って開いたものであったが。



 ……いつから、開いたままでいただろうか……



「大丈夫ですか?お顔の色が、優れませんが。」

「あぁ…。いや、うん。大丈夫だよ。」



 気遣いの言葉に応えながら、額に手を置き、息を吐き出す。



「それにしても、よく降りますな。まぁ、最近雨が少なかったですから、恵みの雨と言えなくもないですが。」

「……そうだね。」



 円夏が窓際に立ち、降り続く雨に憂鬱そうな表情を浮かべる。

 それにつられて見た空は。

 まるで泣いているかのように、無数の水滴を地面へと落とし続けている。



 ―――そ、そうだね。ごめん…じゃあ、帰るよ。―――



 昨日、志季が自分勝手な想いをぶつけてしまった、愛しい少女。

謝りながら、駆けて行った香蘭。

「…………。」



 彼女は一瞬、泣きそうな顔をしたのだ。

 涙は見なかったけれど……。志季にかけられた言葉に傷つき、走り去った。



 ……どうして、あんな言葉を投げつけてしまったのか。もし、もう宮殿に来てくれなくなったら、どうするのか……



「……っ。」



 そんな悔み気持ちが、後から後から志季を責め立てる。



 香蘭は何も悪くないのだ。

ただ不安で、苦しくて……想いを吐き出す先がなくて、何の非もない香蘭を責めてしまった。



 ―――どちらの想いが、強く重苦しいのかなんて、分かりきっていたことなのに……―――



「?どうされました、陛下?」



 無言で椅子から立ち上がった志季をいぶかしんで、円夏が声をかけてくる。



「ちょっと気晴らしに学校に行こうと思って。」

「え?こんな雨の中ですか?」

「うん。」



 突然の発言に、腹心の部下の眉間に皺が寄った。だが、それを無視して志季は書簡を丸めて机に戻す作業を始める。



 このままでいるわけにはいかない。ただでさえ微妙な時期なのだ。香蘭を傷つけたままでいるわけにはいかない。

 

……なぜなら、今、強力なライバルが香蘭を狙っているのだから……



「陛下。」

「っ!!」



 一瞬脳裏に過った男の影。その人物を脳内から振りきろうとした瞬間。

 まさしく浮かんだ男に声をかけられる。



「どこかへお出かけですか?」

「……いや。どうかした?」

「あ、はい。少々、お時間よろしいですか?」



 丁寧に礼を尽くして入室してきた雨帖は、志季が立ち上がっているのを見て小首をかしげた。それに対し、志季は口元だけを笑みの形に歪めて、彼を迎え入れる。



「うん。ちょうど休憩しようと思っていたところなんだ。」

「おや、雨帖。どうした?そんな正装で。確かそれは陽の国の王族の衣装だな?」



 円夏に言われて、彼の服装を改めて確認をする。

 普段、雨帖は一部の装束品以外は全て晶の国の物を着用していた。

 それは彼がこの国の帝の忠臣であると同時に…この国に属する者であることを臣下に知らしめるためでもある。

 

「あ……。はい。その……。今日は、実は……「雨帖。」」



 若干歯切れ悪く応える雨帖の背後から、突然、聞いたことのない女性の声がする。そして、雨帖を押しのけて入室してきた女性に、志季と円夏は目を見開いた。









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