「瑠璃様……。」
「ごめんなさい。ニ度と王族に巻き込まれて、いらない苦しみを味わう人を出したくないと言ったのは私なのにね。でも、私は陽の国も、雨帖が仕えるこの晶の国も、大好きなの。守るためなら、例え悪人になったとしても私は構わないわ。」
―――もしも、じっちゃんや…村の皆を守る方法が。この国を悪い王族から守る方法が、私にあるのだとしたら……。私は、何だってやってやる。それが悪いことだと分かっていても。―――
そう誓い、誰にも告げずに王宮へ忍び込んだのは、それほど昔の話ではない。
そして幸運にも、香蘭は志季と出会うことができた。
この国を豊かにするために、日夜働く優れた賢王。
彼は、香蘭の『友人』ではあるけれど、同時に……
望んでいた、素晴らしい指導者。この国の、大いなる父。
「陽の国の王は、むやみに他国にケンカを売るような人じゃないわ。でも、彼らの息子には血の気の多い連中もいるから、彼らが何かをしかけるよりも先に、晶と陽の関係を強固なものにしておく必要があるの。」
「…………。」
「結論は、今すぐに出さなくてもいいわ。…無理強いをするつもりもない。でも、一度決めたら覚悟して。」
―――志季……―――
ずっと。
ずっと、友人であると約束をした。
志季の隣に、相応しい女性が並んで立った後も。
その人と志季の邪魔はしないし、香蘭はずっと友人として、志季を想って日々を過ごすつもりでいた。
「瑠璃様……。」
「これは国同士の問題だから。撤回はきかないわ。よく考えて、香蘭ちゃんが決めて。」
王族の権力の前では、ひれ伏すことしかできないと語った、王の子を産んだ女性。
彼女は全てを知っている。
王族に関わることの苦しみも…愛する者に、愛される喜びも…そして、愛する者を憎んでしまう痛みでさえも。
「香蘭ちゃんは、まだ18歳よね?」
「はい。」
「ここで人生を決めるというのは酷な話ね。」
慈しむような優しい瞳で見つめてくれる、雨帖の母。
「あなたには、この村で平穏に暮らすという選択肢があるわ。」
「はい。」
「私達の家族になるという選択肢もある。」
「はい。」
「この村から逃げて、どこか遠くの国にいくことだってできるわね。」
「………はい。」
「選択肢はいくつもあるわ。でも、選べるのは一つだけよ。」
進みたくない、と考えていたのだ。
本当は今、志季のことを考えたくないし…雨帖のことも、考えたくはない。