(sideキョーコ)
しばらく音信不通となっていた敦賀さんから連絡がきたのは、マンションに美の女神の情報をお届けした丁度一週間後だった。
「お身体の具合はいかがですか?」
『うん、良好だよ。あの時は仕事が立て込んでいてね。本当に申し訳ない対応をした。ごめんね?』
「いえいえ、私のことはお気になさらないでください。都合も考えずに押しかけたのは私ですから!!」
電話をいただいた瞬間に思い浮かぶのは、あの日の疲労感満載の敦賀さんのお顔。
お仕事が大変だったとしても、他人の前では笑顔を絶やさない敦賀さんがあんな表情になるのだ。相当お疲れだったに違いない。本当に申し訳ないことをしてしまったわ。
『それでね。仕切り直し、というわけではないんだけど。君に頼みたいことがあるんだ。』
「私に、ですか?」
『うん。君にしかできないことだと思う。女神と会うためにも協力をお願いしたいんだ。』
「女神と!?」
『うん。今日、夕食を共にすることになっている。ぜひ、君にも来てもらいたいんだ。』
この言葉で確信した。敦賀さんは、来日しているミズ・ジュリエラとさっそく会う予定なのだ。
……はわわわわ~~~!!すごい!!すごいわ!!二人が並んだところをぜひともデジタルカメラで収めて『キョーコ☆コレクション』の一つにしたい~~~!!モー子さん、デジカメ貸してくれるかしら~~~!!
「女神にお逢いになるのであれば、ワタクシ、協力をさせていただきますよ!!なんなりとお申し付けください!!」
『うん、ありがとう。君のサポートが貰えることが分かれば、俺には何の不安もなくなるよ。』
やはり美人と会う前、だからだろうか?敦賀さんの声のトーンが少々沈み気味な気がする。いくら抱かれたい男№1の人気を誇る敦賀さんでも、ハリウッド女優との対面に緊張をされているんだろう。
そういう私も、ドキドキとワクワクで心臓が苦しくて倒れてしまいそうだけど……。
当日にお知らせしてくださってよかったわ!!そうじゃなかったら、絶対眠れなかったもの!!
『それじゃあ、時間を伝えるね。あぁ、でも会場には、社長の側近の人が最上さんを送ってくれるから。事務所からその人の車に乗ってきて。』
「はい、分かりました!!」
『……あと、それから。』
「はい?」
『今日は俺の隣から離れないこと。それは厳守してね。』
「え!?」
そんなことをされたら写真が撮れないじゃない!!
私は不満の声を上げたが、その瞬間に電話の向こうから「キュラり」とした光の流れ弾が飛んできたので、慌てて口を押さえつけた。
『……約束、できるよね?』
「ふぇ……ふ、ふぁい!!」
『うん、いい返事だ。…じゃあ今晩、楽しみにしている。』
「はっ、はい!!」
そうして私は敦賀さんから言われた時間に、事務所の地下駐車場に向かったんだけれど……。
「やぁ、最上さん。」
「え、えと……。あ、あの……????」
「あぁ……可愛いね。うん、やっぱり俺の見立ては間違いなかった。」
「え、えぇ??あ、え、あの……。」
言われた場所に言ったら、確かに褐色の肌の社長の側近がいた。執事然とした彼は、私を恭しくキャンピングカーへと導いてくれて。
中に入ると、そこにはミューズがいた。
ヒール兄妹以来の再開に、あいさつをしたのも束の間。私はミューズによって、5分で魔法をかけられて……。
「さぁ、俺の女神様。俺からのプレゼント、受け取ってくれるよね?」
訳が分からない状況のまま、クラシックカーに放り込まれ、連れてこられた、その先。
……超VIPしか泊ることが許されない、某有名ホテルの入り口前大階段にて。
およそ100本の深紅のバラの花束を抱えた男に、いきなり傅かれてしまった……。