「まぁ具体的に何があって、どういう風に君との関係を築いてきたかを語って欲しいっていうんなら、丸一ヶ月くらいかければ話すことも可能だと思うけれど……。どうする?」
「へっ!?」
「あぁ。それから君の好きなところを列挙することも合わせるなら、そのまた一ヶ月かければ可能かもしれない。」
「え!?だって、好きになった理由は分からないって今……」
「理由は分からないけれど、好きなところなら言えるよ。君はとても魅力的な女性なんだからね。」
「!!!????」
爽やかな笑顔でさらりととんでもないことを言ってのける蓮に、キョーコは目を白黒させながら動揺するばかりだ。
「はははっ。そういう、面白い顔も可愛くて好きだよ。」
「っ!?お、面白い顔が好きだって言われても嬉しくありませんっ!!」
「え?そう?…う~~ん、でもなぁ……。俺は好きなんだ。これは個人の好みなんだから仕方がないんじゃないかな?」
「も~~~っ!!敦賀さんっ!!」
「この天然タラシっ!!」と顔を真っ赤にして怒るキョーコ。そんなキョーコの振り上げた手を、蓮は片手をあげる事で制した。
「でも、そうやって聞いてくれるのは嬉しいよ。君にはとても怖いことだっただろう?」
「…………。」
「他人の気持ちを知ろうとすることは、とても怖いことだ。…特に君は、ラブミー部員…『愛の欠落者』なんだからね。」
―――愛したくも、愛されたくもない…『愛の欠落者』―――
そんな存在が、自分を「愛している」などという人間にその真意を問うことは、相当の決意を必要とする。
愛してほしいと叫び、報われなかった…必死に伸ばした手を振り払われたことがある人間にとって、この行動が、どれほどの勇気と相手への信頼を必要とすることか。
「ありがとう。」
「え……?」
突如、口に出された感謝の言葉。
意図が分からず、キョーコはその真意を知るために、優しい微笑みを浮かべる蓮を必死になって見つめた。
……礼を言われることじゃない。むしろお礼を言わなければならないのは尋ねたキョーコのはずなのに……
「ありがとう。俺に、君への想いを伝えるチャンスをくれて。勇気をだして、俺を信じてくれて。」
「っ!!」
「本当に、ありがとう。」
蓮はただただ、慈しむような優しい微笑みを浮かべてキョーコを見つめている。そんな彼の視線を受け止めることが苦しくなって、俯いてしまった。
―――君が恋愛を拒絶していることも…その原因も、知っている。君から聞いたことだから。―――
蓮が知るという、キョーコの過去。それがどれほどの内容なのかは分からないけれど。
……どうして敦賀さんは、これほどまでに理解してくれるのだろう。どうして……
「いつでも、聞いてくれたらいい。俺だけじゃなくて、琴南さんや社長、マリアちゃん…たくさんの人が君をどう想っているのか。怖がらず、聞いてみたらいいよ。」
「……っ。」
トクンッ、と身体中に響く、心臓の音。
―――聞きたいことがあれば、正直に仰ってください。…今みたいに。―――
言われたことは、セバスと同じ。でも、その言葉が耳に響いた瞬間に心を震わせる感情は……。
「君は、愛されているんだからね?」
きっと、もっと違う感情。
「……はい。」
……どうして彼の言葉を聞くと、胸が苦しく、なってしまうのだろう?……
それは芽吹き始めた、花。