「あ。でもね、その目玉焼きは俺が焼いたんだよ。」
「え?そうなんですか?」
キョーコの持つ皿の上の準主役殿は、ほどよく熱せられた半熟状態。とても美味しそうに主役殿を包みこんでいる。
「うん。いやぁ…たくさん練習したんだ。君の分だけでもうまくできてよかった。」
「ほへ?…っ!!!???」
キョーコがウキウキとお皿を見つめながらテーブルへと持って行くと。蓮も自分の分の皿をキッチンから持って来てキョーコの向かいに座った。
その彼の持つ皿を見て…キョーコは、絶句した。
「つっ、つつつ、敦賀様……。」
「え?何?」
「そっ、そそそそ…その黒い未知の生物は一体なんですか!?」
キョーコの前には美味しそうな半熟目玉焼きがのった美味しそうなハンバーグ。そして、蓮の前には……。
何やら不吉な予感しかしない、黒い物体がのった、ハンバーグがあった。
「あぁ。うん。……目玉焼き。」
「!?どうして、どうなったらそういう仕上がりになるんですか!?」
「う~~~ん…最初に焼いたからなぁ…。フライパンに熱が通ってなかったとか?それとも、油の引きが悪かったのが敗因かもしれない。」
「!!??だとしても!!な、なにゆえそのような黒々しくて毒々しい色合いの謎の物体ができあがるんですか!?」
「う~~~ん……。なぜだろう……。遺伝、かなぁ?」
「へっ!?な、なんの遺伝ですか、どういう遺伝なんですか!?」
それは、どう見ても地球外生命体だった。食べたら即死してしまえそうな代物だ。
「まぁいいから。さ、食べよう?」
「まっ、待ってください!!全然よくないです!!せっかくのおいしそうなハンバーグなんですから、その未知の生物をどけましょうよ!!」
キョーコは自分の前に置いた皿を見つめる。…思わず生唾を飲み込んでしまうほどに美味しそうな目玉焼きがのったハンバーグ。漂う香りからも分かる。このハンバーグは絶対においしい。
だからこそ、蓮にもおいしいハンバーグが食べて欲しいのだ。
「……。でも俺、目玉焼きがのったハンバーグが食べたいんだ。」
しばらくの沈黙の後。「むぅ…。」と頬を膨らませて天下の『敦賀蓮』がのたまった台詞に、キョーコはあんぐりと大口を開けてしまった。
「そ、そんなに目玉焼きが好きなんですか…?それなら、私のものを……。」
「あ、いや。違うんだ。」
大好物の準主役様を譲ることは断腸の思いがするわけだが。それでも、こうして夕飯の準備をしてくれた蓮になら、目玉焼きを渡そうと決意し、キョーコは自分の皿を蓮に突き付けた。
すると、蓮は慌てて首を振り、その後照れくさそうな笑みを浮かべた。
「……単にね、君と一緒の物が食べたかったんだ。」
「ふぇ?」
「君と同じ食べ物を、一緒に食べる時って、本当に幸せだなって思うから。」
まるで少年のような笑みを浮かべ「大人げないよね…」と呟きながら、未練を残した様子で『未知の物体』をハンバーグからよける蓮。
そんな彼を見つめていると。
トクン……とキョーコの胸の奥で、『何か』が揺れる、音がした。
「あの。でしたら……。」
「ん?」
未だ惜しそうに黒い物体を見つめていた蓮の瞳が、キョーコを捉える。とても穏やかで優しい瞳が、キョーコを映していた。
「半分こ、しましょう。…うまく切れないかもしれませんが……。」
キョーコはナイフとスポーンを台所からとってくると、さっそく自身の前に置かれた半熟玉子に切れ目をいれた。途端に黄身が広がっていくが、それをすくい上げて、蓮のお皿へと映す。
「やっぱり綺麗にはできませんでしたね。」
「うん。でも、おいしそうだ。…ありがとう。」
「いえ。私こそ、ありがとうございます。」
お互いの皿にのった目玉焼きは、美しい原形をとどめていない。でも、キョーコには昔食べた綺麗な目玉焼きののったハンバーグよりもとてもおいしそうに見えた。