帝の至宝~愛し君へ贈るもの(2‐3)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「…………。ごめん、そろそろいいかな?疲れたから休みたいんだ。」

「はい。では、失礼いたします。」



 雨帖は最敬礼をして静かに志季の室を出て行った。



「…………。」



 確かに、疲れはしていた。重く苦しい空気が身体中に付きまとい、指一本として動かすことができない。

志季は椅子に座したまま、ただ茫然としていた。



 香蘭が、お嫁に行く。…誰かのものになってしまう日が、くる。

 いつか来る日であろうことは考えれば思いついただろうに。

 なのに、想像もしたことがなかった。自分自身が、妃をとることを義務付けられた後でさえ。



「香蘭……。」



 命よりも大切な、国を支えるための指針となる女性。灯台のように行くべき道を知らしめるその光は、誰かの隣で微笑むようになってしまうのだろうか?

 そしてその『誰か』とは、雨帖なのだろうか……?



「っ!!」



 香蘭が幸せそうに微笑むその隣で、いつものような柔和な笑みを浮かべる雨帖。その姿が思いのほか似合っているように感じられて、志季は頭を振った。



―――……好き……―――



 泣きながら、伝えてくれた天にも昇る至福の言の葉。

その声は。あの時の香蘭の涙に濡れた瞳は、未だ志季の中に鮮やかに蘇る。

 あの言葉は、確かに志季が受け取ったものだ。受け取って…。



そして、志季がその手で握りつぶした。



「……。…香蘭……。」

 

 彼女は、応じるのだろうか?あの日のような切ないほどの想いが伝わる声で、雨帖に愛を囁く日が来るのだろうか?

 そんなこと、絶対にあってほしくない。例え志季が受け取れないとしても、他の誰かが受け取る日など、きてほしくない。



 ……誰のものでもない彼女を、誰よりも『誰か』のものにしたくなかったのは、きっと……



「卑怯者。」



 それはきっと、紛れもなく志季自身。幸せにしたいと願う少女の幸福を、心から祝えない自分自身への嫌悪感に、眩暈を覚えた。



 ―――はい、もちろんです。―――



 香蘭を、幸せにする。そのことに対して、あれほどまでにしっかりと肯ける雨帖は、誰よりも香蘭の隣に相応しい。

 けれど……。



「…………。」



 志季は全てを消してしまうかのように、固く目を閉ざした。

もう、何も考えたくはない。何も……。



帝の私室を照らすろうそくの灯りが、ゆらりと風に揺れて…そして、世界を闇に変えた。







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