(とある俳優の度量)
「ただいま、京子ちゃん。」
「おかえりなさい、敦賀さん。」
1ヶ月1万円生活を慎み深くスタートさせた二人の挑戦は、対立することもなく、むしろ助け合ってつつがなく続いていた。
特に『京子』の器用さと発想によって、今回のチャレンジの間に新たなキッチン用品(主に某ゴージャスターのために作られたもの)や掃除グッズ(主に某セレブ俳優のために作られたもの)などがこの世に誕生をしている。この映像が世間様に披露される頃には『京子』ブランドの商品が店の前に売り出されるであろうことは容易に想像できていた。
…しかも、今回のチャレンジでは、それを『敦賀蓮』が使用している様子を見る事ができるという宣伝効果まであるのだ。
その話が持ち上がるのは、しばらく先のお話…ということになるのだが、それは現在のキョーコと蓮の与り知らない部分であり……。
彼らは。
「今日のご飯は何かな?」
いつも通り、甘々な笑みを浮かべる先輩俳優と、そんな先輩にキューティーハニースマイルをぶつける最強後輩タレントとして仲睦まじい様子を見せるのだった。
「ふふふっ、今日はですね、ちょっと奮発して牛肉を使った料理なんですよ~~。」
「安く牛肉を仕入れる事ができたんですよ!!」と胸を張るキョーコ。そんなキョーコがどれほど無理をしたかということを想像したのだろう、蓮は若干唇を歪めながら「そう…。」と応えた。
何せ今回は『お色気ムンムン大作戦』の時の『餌』がいない。ということは、可愛い蓮の後輩タレントは、たった一人であの戦場に向かったということだ。
「でも、女の子なんだから無茶はしないでね?」
「大丈夫です!!戦地におもむく者は女性ばかりですから。あれは女の闘いなんです!!」
「……。うん。でも気をつけて。」
女性の闘いとはいかに恐ろしいかは、先日体感したばかりだ。
あれは特殊な状況だとは思うが、それでも『特売』などと呼ばれる目玉商品が出た日には、同じような殺気(?)を放つ女性達がその棚に飛びついて行くのだろう。
……蓮に飛びかかろうとした女性達のように。
「…………。可哀想に……。」
思わず取り合いになる肉達を想像して、蓮はぼそりと呟いた。キョーコに餌として差し出され、初めて闘いに挑む女戦士達の対象物となった時の恐怖は忘れられない。
今回の対象物となった肉達に本当に同情をしてしまう。
もっとも、その中の一つは。
「…………。」
「いただきます。?あれ、敦賀さん、どうしたんですか?」
……キョーコの愛らしい手の中に収まり、文字通り料理されるという何だかちょっぴり羨ましいことになっているのだが……。
「……俺、心が狭い……。」
「!?えっ、ど、どうしたんですか、敦賀さん!?」
「もしや牛肉、ダメですか!?ハッ!!それとも安い肉だからですか!?セレブリティーはやっぱり安い肉じゃダメ!?」と妙な心配をし始める後輩にはとても言えない自分の狭量さに、蓮は凹凹になって落ち込んでしまうのであった。