その日の会話は、他愛もない会話だったわ。特に意味があるだなんて、全く感じはしなかった。
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超人気俳優で、芸能界1イイ男、抱かれたい男№1と呼ばれる、私の尊敬し、崇拝する先輩俳優は、どうも私達がLME事務所の中で過ごす部室、「ラブミー部」をいたく気に入っていらっしゃるようで、その日もたまたま訪問してくださっていた。
「最上さんはゲームとかやらないの?」
「え?」
きっと「LMEの魔窟」とか、「ローリィ宝田の遊び場」などと呼ばれているこの部室を、事務所の皆さんも敬遠されていることが、敦賀さんがここにくる原因の一つなのだろう。だってここだったらゆっくり休憩できるものね。私の他の部員である…モー子さんは敦賀さんのことを尊敬はしているみたいだけれど、世の乙女たちのように媚を売るわけでもないし、天宮さんに限っては興味をカケラも持ってないみたいだから。
そんなどうでもいいことを考えていたら、突然大先輩が私に御下問された。
突然の問いに疑問が浮かんだけれど、その視線の先にはモー子さんが置いて行った雑誌が開けっぱなしで置いてあった。確か…モー子さんの弟さん(四男双子の片割れ)が学校で流行っているゲームで、やってみたいと駄々をこねて大変なんだって言いながら……ゲーム機の値段に猛烈な抗議をしていたわね……。
「あぁ…はい。家にゲーム機もないですし、実はやったこと自体ほとんどないんです。」
その時はモー子さんの怒りに呑まれて振り返る余裕もなかったけれど、過去を振り返って苦笑いを浮かべてしまった。
私が幼い頃にも、流行ったゲームはたくさんあって、男の子も女の子も、学校では毎日その話題で持ちきりだった。でも、母が勉強の邪魔にしかならないゲーム機を私に買い与えてくれるわけがなかったし、毎日旅館でのお手伝いに手がいっぱいだったから、ゲームなんてする時間はなかったし……。
そもそも、私には例えゲームができる環境が整っていたとしても、一緒にやってくれる友人もいなかった。
「え、と…。それがどうかされましたか?」
思わず落ち込みかけて…。それでも、顔を上げて笑顔を向けようとした先の人物が、ものすごく深刻そうな顔をしていた。…何か、とても辛いことを思い出しているかのようなその表情に、一気に敦賀さんへの心配が募る。
「あ、ごめん。特に理由はないんだけど…。」
私が声をかけたことで我に返った敦賀さんは、少し寂しそうな笑顔を浮かべた後、ちらりと雑誌を見つめ…。それから、優しい笑顔を浮かべた。
「ほら、最上さんって妖精や魔法、お姫様とか…好きだよね。」
穏やかな春の日差しのような笑顔を浮かべた敦賀さんのオーラと、私の大好きなメルヘン世界のお話に、私の中に芽生えた不安などが一気にとんでいった。
「はいっ!それはもう…なんて言っても私にはコーンがいますから!」
『妖精』と聞いて一番に思い浮かぶのは、当然『コーン』だわ!!だって、妖精界の王子様なんですもの!!きっと今頃、七色に輝く羽をもって、誰よりも美しく気高い姿で生きていてくれるはず!!
「そうか…。君のファンタジー好きは『コーン』の影響なのか。」
都会にいる妖精さん達とお話をして、『コーン』の情報を得ようとしていた私の耳に…愛らしい妖精の声ではなく、どこか闇から響く色を乗せた穏やかな男性の美声が聞こえてきた。
「あ~…えっと、」
こちらを見る敦賀さんの視線。なんというか…嬉しそうな…でも何だか怒っていらっしゃるような…。なんとも複雑な表情を浮かべていらっしゃる様子に、少し言い淀む。
「そればっかりじゃぁないんですけれど。もともと童話やおとぎ話なんかは好きだったんです。そこへ本物の『妖精』に出会って、あぁいう話が全て嘘じゃないって信じられたから。…それでいつかは…」
―――ショーちゃんはねェ、わたしの王子さまなの~~~…―――
言葉を続ける前に、脳内に響いてきたのは、おバカな女の子の声。そして脳みそが溶けたようなバカなその子が言った言葉に、一気に浮かんだのは……。
………っ!!!!
名前も出したくない、あの金髪ナルシストヤロ~~~!!
瞬時に心の中で舞い踊っていた妖精さん達が消えていなくなる。
…シャバダバシャバダバ~~♪……
などという声と共に何か黒くて禍々しい…なのになんだか気持ちがいい物体が身体から這い出て来るのを感じたわ。