※注意!!一部本誌ネタバレです。さらりと書いたつもりではありますが、絶対に嫌な方はよまないでくださいませ~~!!
「ごめんなぁ~~、蓮。キョーコちゃん、どうしても捕まらなくてさぁ……。な~~んか、狙ったみたいにお前が時間ある時に限ってキョーコちゃんは予定が入っているんだ……。」
「社さんのせいじゃないですよ。」
思わず浮かぶのはあの子に対する恨みごと。呟いた言葉を社さんに拾われて、少し気まずくなった。
……そういえば、社さんだってこの場にいたんだな……。
「弁当を届けてくれた時にもうちょっと待っていてくれたらなぁ。一目でも会えたのに、キョーコちゃん、風のように去っていったから。」
「……あの子も今や売れっ子ですものね。」
タレントであり、女優である『京子』。その面白おかしすぎる言動でお茶の間の人気を博し、女優としての成長も著しい。もはや彼女を『ハイエナ部員』や『社長の単なるオモチャ』と蔑む人間はLMEどころか業界内にもいなくなった。
正直に言うと、俺の告白の背景には、恐ろしいほどの勢いで成長を続ける彼女の、その眩しい姿に焦った、ということもあった。
「まぁとりあえず。可愛いお前の『恋人』からの弁当、残さず食べろよ?」
「……はい。それはもちろんです。」
―――あの…。これから、よろしければ私のお弁当を食べて下さいませんか?…できれば、毎日。―――
そんな輝かしいあの子。でも、俺の告白に嬉しい返事をしてくれた時、照れながら俺に願い出たことはたったそれだけだった。
何とも奥ゆかしくて可愛らしい存在に、俺は身もだえするのを必死に留めるために彼女が恐れるほどの無表情っぷりをさらすことになった。
そんな可愛いお願いによって実現しているお弁当。毎日届けられる栄養満点のこのお弁当を、残したことなんて1日だってない。
「…………。」
でも、このすれ違い具合はひどすぎるのではないか、と。毎日交わす連絡で『会いたい』とか、『寂しい』とか、そういう言葉を少しくらい書いてくれてもいいんじゃないか、と。
愛しいゆえにその謙虚さを恨めしく思ってしまうのは、当然ではないだろうか?
―――お弁当、差し入れありがとう。毎日ごめんね?とても美味しかったよ。お弁当も嬉しいけれど、できれば君に会いたいな。今度、いつなら時間がとれそう?連絡、待っています―――
不満を抱えながらも弁当を食べ終えて、俺はメールを送った。告白した日に即ゲットしたあの子のメールアドレス。悔し紛れに携帯電話の『電話』機能の重要性を訴えた過去の日を思えば滑稽な話だ。しかし、なかなか電話をかける時間がない俺としては、一方的とはいえ連絡が取れるメール機能は大変便利な代物だった。何せ最近は電話さえ繋がることがなく、声を聞くことさえできていないのだから…。
彼女に会えない『飢え』を凌ぐ方法は、もはやこの連絡方法のみとなっている。
―――お弁当、今日も食べてくださってありがとうございます!!明日もお届けにあがりますね?お忙しい毎日だとは思いますが、身体に気を付けてください。―――
「…………。ふぅ~~~~……。」
……そう。例え、欲しい答えが返ってこなかったとしても。若干の不満はありつつも、彼女からも返事があるというだけで満たされる心。
にやけそうになる頬を落ちつけるために深く息を吐きだして。
「………。蓮。顔。」
「………。はい、すみません。」
……それでも緩むことを抑えられない顔を優秀なマネージャーに指摘されながらも生活していた俺は。
事態が知らない間に深刻な方向に進んでいたことに、全く気付いていなかったのだった。