※注意!!少々本誌ネタバレが含まれます。大したものではないのですが、ネタバレが嫌な方は申し訳ございませんが、お読みにならないでくださいませ…。また、とある方々にはとっっってつもなく気分を害するような表現が出てくるかと思います。話の展開上、必要不可欠なので掲載しますが、読めないと思った時点でお読みにならないよう、お願いいたします。
「ハッ!ざまぁねぇな。これが業界1とか言われる男のすることかよ?」
「…………。」
目の前には、この世で一番嫌いな男がいる。
その男が今、視界の中でしている光景は、いつかこの男にさせてやろうと思っていた姿だった。
それは、この世で一番ダサくて格好悪いありさまだ。
どんな状況に追い込まれようと、自分だったら絶対やらないと決めていた。
だけど。
どうして今、こんなにも『負けた』ような気分になっているのだろう?
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来客は、突然現れた。
TBMでの番組収録が終わり、今夜は久しぶりに『あの店』に行くつもりだった。
汚い、安っぽい食堂。その外観と同じように、サラリーマンの中高年が利用するような安価な値段の食堂だった。
だが、さすがキョーコが足繁く通っているだけあって、その味は舌に合う。
「……はっ、だっせぇ……。」
今や抱かれたい男ランキングにノミネートされるほどの芸能人になった。
そもそも元々の家柄がいい方だし、『一流』を求め続けるこだわりの男である。
そうあることを胸に誓い、そのように行動してきたはずだ。
そんな一流芸能人が出かけようとする先が…新人ペーペータレントが頻繁に通う安っぽい食堂とは。
「…………。」
とはいえ、気に入ってしまったものは仕方がない。安っぽかろうが、実際に安かろうが、汚かろうが、行きたくなったのだ。それを止める必要はないだろう。
特に、今日は祥子がこの後別行動を取ることになっている。1人になれるこんな時にしか行けないのだから、絶好のチャンスだ。この機会を逃すと、完璧を求める彼は、しばらくあの安っぽい店に近寄る事すらできない。
尚はゆっくりと腰かけていた椅子から立ち上がると、メッセンジャーバッグを肩からかけた。
ビジュアル系で売っている以上、カメラが回っている前ではシャツにカーゴパンツなんて格好で出歩くわけにはとてもいかない。
だが、今からは自分の時間だ。何をしようが文句を言われる筋合いはない。実際、節度を守れば、文句を言う人間なんていないのだから。
妙な解放感に、ニヤリと笑みを浮かべたその時。
コンコンコン、と扉を叩く音がした。
「……はい。」
祥子が戻ってきたのかもしれないと思いながらも、尚は返事をする。相手が祥子ではなく、スタッフである可能性もある。一応礼儀は弁えているつもりだ。
嫌いな相手にまで礼儀正しくできるほど、『出来た人間』ではないが(というよりそんな人間には一生なりたくないが)、業界の厳しさは知っている。
「失礼するよ、不破君。」
「っ!!」
返事をして、扉が開き。……入ってきた男を見て、尚は目を大きく見開いた。
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