(『愛』さえあればOKです?①)
「つっ…つつつ、敦賀さんっ!!」
「え?…何かな、京子ちゃん。」
東京都にある某マンションの某号室。そこには、業界1イイ男と称される某有名俳優と、その後輩である某タレントが、共同生活を送っていた。
「な、何故そんなことになっていやがるでございますか!?」
「え、何が?」
その某号室のキッチンでは。ヒクヒクと頬を引き攣らせながら、『某タレント』であるキョーコが『某俳優』である蓮の手元を覗き込んでいた。
「私、卵の殻を割ってくださいってお願いしましたよね…?」
「うん、そうだね。」
ニコニコと。人気№1俳優は実に機嫌よく返事をしてくれる。何が嬉しいのかと問いたくなるほどの笑顔全開で、本日の彼はスマイル0円並みの出血笑顔大サービスをしているのだ。
「……。卵を握りつぶせ、とは言っていないのですが……。」
「え?」
だが。そんな人気俳優の悩殺スマイルも、彼が卵を握りつぶした残骸が残るボウルを見つめ、怒りに震えるキョーコの前では全く効力がなかった。
「敦賀さんっ!!」
「!?はいっ!!」
ブルブルとひとしきり打ち震えた後。キョーコは鬼の形相で蓮を睨みつけた。ここで初めて何やら失態を犯したらしいことを知った蓮は、慌てて返事をして姿勢を正した。
「どうしてっ!!卵を殻ごと潰しちゃうんですか~~!!こんな卵、どうやって食べるんです!?」
「え?で、でも……カルシウムも一緒に摂れて実に効率的だって……。」
かつて。彼が子どもであった頃。
某スーパーモデルであり、ハリウッド女優である女性の手料理を食べたその夫が、蕩ける笑みでそう言って褒め称えていたのだ。彼はそれを何十回と見ている。
「卵の殻が入った料理なんて、美味しいわけがないでしょ!?」
「…………。」
確かに、ニコニコ笑っていた大食漢は瞬時にその卵の殻入りスクランブルエッグを食べきっていたが…少年であった彼は一口食べた瞬間に「オエッ」とえずきかけたのだ。ただし、えずいた原因は他の部分にあり、『卵の殻』が入っていることは大した問題ではなかったのだが…。
「…オムライスの時はちゃんと卵を割っていたのに……。」
「え?あ、あれが『卵を割る』ってことなの?」
オムライスは父が作った料理だ。食に関して興味が沸かないのは昔から変わらない彼の気質であったが、あの料理だけは特別だ。
何が、というわけではないが、美味しく感じられたのだ。だから少年であった彼は、その手順をなんとなく覚えていたのである。
あの時の父の行動を見よう見まねで作成したのが、キョーコと一緒にやっつけた怪物『マウイオムライス』。ゆえに作成途中の初期作業である、卵の手順は完璧にコピーできていた。
「オムライスを作っていらっしゃった時の行動が本来の『卵の殻を割る』ということなんです!!」
「そ、そうか…。」
あまりの認識のズレに、怒るキョーコへの恐怖よりもカルチャーショックのようなもののほうが大きい。
……そうか、卵の殻が入った料理というのは『マウイ』の原因になるんだな……