ふぁざ~ず☆でぃ特別編~真実のラベル(1)~ | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 俺は某デパートの酒売場で働く販売員だ。

 この店では、日本酒、焼酎、ワイン、ビールなどのありとあらゆる種類の酒からつまみとなる高級チーズに至るまでが、品よく陳列されている。



「やぁ。木崎君。」

「ご無沙汰しております、葛西様。」

「今日は妻に贈るワインを選びに来たんだが……。」

「そうですか、奥様の。確か奥様のお好みのものは……」



 ワインにおいてもテーブルワインからヴィンテージまで。品種も多ければ値段の幅も広い。この店ではお客様のお求めの物を必ず見つける事が出来ると自負している。

 店長をはじめとする、販売員である俺達の気概もあってか、結構な資産家の方や著名人がこぞっておとずれる有名な売場となっているのだ。



「ありがとう、いいものが見つかったよ。」

「いえ。奥様もお気に召してくださればいいのですが。」

「はははっ。木崎君が選んでくれたんだ。妻もきっと喜ぶさ。」

「ありがとうございます。今後もどうぞご贔屓に……。」



 ゆえに、この場にはめったに子どもの姿はない。この場が作り出す大人の雰囲気が、禁制ではないのに足を遠のけるのだ。例え子どもがいたとしても、走りまわるようなことはしない。

この場所は紳士淑女の訪れる、選ばれた場所。



「ありがとうございました。」



 俺はお得意様を最敬礼でお見送りした後。「ふぅ…」と軽い溜息をついた。

 客商売というものは、一瞬でも気が抜けない。特に礼儀作法に厳しい人間の接客には細心の注意が必要だ。

 本日もお得意様から100万円のワインを購入いただけて、安堵と共に充実感が身体を満たす。



「さて、と……。」



 さて、今日はどんなお客様との出会いが待っているのだろう?

 俺はくるりと方向転換し、店内に並ぶ酒瓶達に笑顔を向けた。







*****







「ほぇ~~…。種類が豊富ですねぇ……。」

「そうだね。これだけの品種が揃っている店は日本にここだけだから。父の日に見合う、良いお酒が置いてあるんじゃないかな?」

「本当ですねっ!!でも、これだけあると迷いますねぇ……。どれも高そうだし……。」



 午後3時。

 客足がなくなった店内に、それを狙ったかのようにして現れたのは、妙な二人組のお客様であった。



「う~~ん…。ちなみに最上さんはどういったものを買うつもりなの?」

「そうですね。日本からお贈りするわけですからやっぱり日本酒、ですね。」



 落ちついた、艶のある声音の男と…可愛らしい鈴を鳴らすような声の女性。声だけ聞いていると、ものすごくお似合いのカップルのように思えた。…なのに。



「いらっしゃいませ、お客様。」

「お世話になります。」

「あ、お、お世話になります……。」



 行礼し、出迎えた二人。男は実に落ちつき払った上流階級らしい会釈でもって応じてくる。そんな彼の半歩後ろで控える女性は、初々しさを感じる仕草で頭を下げた。

 …なのだが。



「日本酒か…。ワインなら多少詳しい自信はあるんだけれど…。」

「そうですか。でも、先生がお飲みになれるのなら、日本酒が良いと思うんですよね…。」

「あぁ。彼は酒全般、大概のものは大丈夫だって社長から聞いているよ。」

「そうですか!!そういえば、先生は京都出身ですよね?やっぱり京都の酒蔵のものにしようかしら。」



 男はまとめられていないボサボサな髪に、やたらと縁の大きな眼鏡をかけ…。ヨレヨレのTシャツに破れまくったジーンズ(ダメージジーンズには見えない…)という実にだらしない格好だった。



「京都も歴史のある酒蔵が多いからね。」

「そうですね。」



 そんな男の後ろに控えているのは、シルバーグレーのストラップワンピースの上から、透かし網のカーディガンを羽織った女性だった。大きな瞳が少し幼い印象を与えるが、とても綺麗な20代前半くらいの清楚・可憐を絵にかいたような美しい人だった。



「ちなみに予算はどのくらい?」

「うっ…えと…その…。郵送代とかもあるし…。ご、5,000円以内で……。」

「なるほど。大丈夫、それだけあればいいお酒が買えるよ。」



 雰囲気はこのような売り場に足を踏み込んだことがないかのような女性に、それをエスコートしてみせる男。

 いつも店内で見かける光景といえば、光景だ。 …でも…なんだ、この違和感は。



 むしろ立場が逆ならしっくりくるのに、目の前にいる野暮ったい男は、大人美人を素敵にエスコートして見せているぞっ!!



「でも日本酒となると難しいな…。ワインならこれとか良いと思うんだけれど……。」



 不似合いすぎる二人の様子が気になって、俺は彼らの様子をそれとなく観察し続けていた。棚の整理をしていると見せかけて会話を聞いていると、男がワインを女性に差し出しているところだった。



「熟成感はまだ少ししかないけれど、そろそろ飲み頃なワインなんだ。とてもエレガントな飲み心地だよ。彼はこういうしっかりとしたボディとアルコール度数が高いものを好むらしいからね。」

「へぇ…。そうなんですか……。」



 繁々と男が見せるボトルを眺める女性。

 それにしても。



 あの男……!!この店の雰囲気に全く合わない格好をしているくせに、選んだ銘柄は確実なものだっ……!!かなりのワイン通と見たぞ!!



「まぁ、今回はワインじゃないからね。日本酒のほうへ行こうか。」

「はいっ!!」



 元気いっぱいな少女のような、気持ちがいいほどの返事をしてみせる美女の、外見とのギャップといい…なんだか妙な二人組である。

 

 その後、男が手に取るものはウィスキーにしても、何にしても…どれもが一級品ではないけれど、味は保証されているものばかりだった。



 ……あの男……できる……。






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