(おやすみなさいは一緒に①)
「…………。」
「…………。」
東京都にある某マンションの某号室。
そこには、兄妹でもなければ、結婚もしていない、ましてや恋人同士でもない一組の男女が同居生活を送っていた。
そんな二人の生活の記念すべき1日目が終了する頃。当の本人達は…固まっていた。
「―――京子さん。」
「…はい…、…敦賀さん…」
「…俺は今、なんだかとてつもなく情けない思いをしているよ。」
どこかで似たような会話を交わしたな…と、二人は同時に思ったのだが、口にはしなかった。
「あ…、…あの…寝袋で…私が床でという事も…」
代わりにキョーコの口から提案された内容も、どこかで聞いたことがあるもので。
「寝袋はない上に、女の子にそんな事、させられるわけがないだろう?」
それに応えた蓮の言葉も聞いたことがあるものだった。
「…どうして2LDKでこんなことになるんでしょうね……。」
「……それは俺も知りたいよ……。」
「「ふぅ~~~…」」と二人の口から零れ出るは長い長い溜息。
2LDKという間取りの空間において、その『2』で現される一室。…そこには。
「でも、なんとかしようと思えばなんとか……。」
「あれをどこにどうするっていうの?」
「…………。ゴミに出す、とか?」
「別にいいけれど…。見たところ、全て最新型の電化製品みたいだよ。一番安い掃除機で30万ってところかな?」
「!?ヒィッ!!お、恐ろしや~~~~!!」
テレビ、洗濯機、掃除機、冷蔵庫、エアコンなどなど。電気屋でお馴染みの電化製品の数々が所狭しと…詰め込まれていた。
こんな企画で、男女が共同生活を送ると言うのに、何故そんなものが詰め込まれたのか。
そのことはキョーコには皆目見当がつかなかった。
蓮はニヤけるコスプレ初老の姿が脳裏に浮かんだものの、そのことを口にする気はなかった。
「とにかく今日はもう遅いし…。俺がリビングで寝るから、京子ちゃんは……。」
「!?そんなのダメです!!敦賀さんをこんなプライベートも何もない場所で寝かせるだなんて、そんなことはできません!!だから敦賀さんは寝室を使っていただいて私が……!!」
「……俺こそ君をこんな場所で寝かせられるわけがないんだけれどね……。」
通常であれば、寝室にもカメラが設置され、1万円生活を送る芸能人達の姿も視聴者に見せられることになるのだが。…やはりゲストが敦賀蓮、ともなるとそういったサービスはない。彼の無防備な寝姿など、単なるバラエティー番組が捉えていいはずがない『画』なのだ。
ゆえに、どうやって部屋に運び込まれたのかさっぱり分からないキングサイズのベッドがある寝室には、カメラは一切なかった。
「何仰っているんですか!?敦賀さんと私の価値を計った場合の結果は明白でしょうが!!」
「うん。だからこそ、俺がリビングで君が寝室。」
「っ!?どう計算したらそういうことになるんです!?」
「何回計算しても俺の中では揺るぎない答えだから。それで決定。文句なし。」
『敦賀蓮』と『最上キョーコ』。二人を計りにかけた結果など、決まっている。…だが、その答えは蓮が導き出した答えとキョーコが導き出した答えでは全く異なってしまうのであった。
「ダメですっ!!そんなこと認められるわけがありませんっ!!」
「俺だって君がリビングで寝るなんてことを認められるわけがない。この業界で先輩の命令は絶対だよ?」
「先輩の命令とはいえ、礼儀に反することをできるはずがございませんっ!!」
バチバチ、と二人の間で火花が散った。…いつ以来になるだろう、この喧嘩腰の挑戦的な少女の瞳は。こうなったら梃子でも動かない強い意志を持っていることは、これだけ何度も衝突しあえば蓮だって理解できた。